第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『オフショットは、密やかに』
昨夜のスポーツニュースでは、全日本選手権に絡めて、かつて同い年の同期にして1、2を争っていた勝生勇利と上林純の再会と別れにスポットを当てた諸岡の采配が見事に決まり、他局を出し抜いて深夜の時間帯にしては中々の視聴率を稼ぐ事が出来た。
現在開催中である女子FS終了後、四大陸選手権と世界選手権の代表選手達の発表があるので、諸岡は男子選手をはじめペアやアイスダンスの選手達のいる控室へと足を進めていた。
他の選手達に勇利の居場所を尋ねると、「さっき上林さんと通路脇にいましたよ」と返事が返ってきた。
おそらく、勝生くんと昨日の男子FSで現役引退を決めた上林くんとの間で、積もる話や昔話に花を咲かせているのだろう、と思いながらもあわよくばリンク上とは違った彼らのオフショットを狙って目的の場所まで移動すると、勇利と純の後ろ姿を発見する。
諸岡はカメラマンに目で合図を送ると、身を寄せ合ってタブレットか何かを一心に見つめている2人に近寄ろうとしたが、
「ぐわああああ、仔犬がばい可愛かああああ!!」
「液晶おぉぉ!!今すぐそこどかんかい、ドアホぉ!!!」
この後、可愛い仔犬の動画を観て悶絶する日本代表のエースにして『遅咲きのスター』と現役を離れた『氷上の風雅人』のオフショットが、実際にオンエアに使われたかどうかは定かではない。