第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『SF(少し不思議)な白昼夢』
密室に閉じ込められた勇利と純は、ベッドの両端に腰掛けながら気まずい雰囲気を持て余す。
「メタな言い方だけど、これって24時間以内に、その…」
「この作品R18と違うから、それ以上言うたらあかん。けど、困ったなあ」
「扉についてる数字って、残り時間だよね。このままカウントダウンを迎えたら…」
「どないする?もしも勇利にその気があるなら、僕も脱出の為やし1回だけ割り切って…」
「ダメだよ!」
ためらいがちに切り出した純の言葉は、間髪入れず返ってきた勇利の拒絶に阻まれる。
「そやろなあ。勇利にはデコがおるんやし」
「それもだけど、純は僕の大切な友達なんだから、そんな真似出来る訳ないでしょ!」
そう力説する勇利に、純は目を細めた。
その後、2人で部屋中を探し回るも、脱出の手がかりは見つからなかった。
途方に暮れた表情でベッドにうずくまる勇利を、部屋の角から見つめていた純は、やがてゆっくりと歩み寄ると、隣に腰掛ける。
「このまま時間切れになってしもうても…僕はええかも」
「え?」
「勿論、ややこしい関係になるつもりはないけど…ずっと勇利と居る事が出来る。昔、一緒に競技しててもお互いの事何も判ってへんかった頃の分まで」
「純…」
「最期まで勇利と色んな話出来るなら、僕はそれでもええ。ずっと一緒や…」
何処かせつなげな純の声と表情に、思わず勇利が胸を躍らせそうになった直後、
「…勇利!」
愛しい人の声と、それまでびくともしなかった部屋のドアが、勢い良く破壊された。
「ロシア人の俺でも日本の夏が酷暑だって判ってるのに、何やってるんだよ」
ロードワーク中、軽い熱中症になり木陰で休んでいた勇利と純に、ヴィクトルの説教が飛んだ。
渡されたドリンクで喉を潤した勇利は、隣で座り込む純に視線をやる。
暑さで意識をやられていた時、どうも奇妙な夢を見た気がするのだ。
「…何?」
「いや…純は大丈夫?」
「有難う。平気や」
いつもの様子で答える純に、勇利はゆっくり立ち上がろうとすると、
「ちょっと残念」
微かな囁きが勇利の耳に届いた気がしたが、間もなくそれは木々のざわめきにかき消された。