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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『繋がる想い』


オフを利用して長谷津に訪れた南と礼之は、リンクで滑る勇利を食い入るように見つめていた。
「勇利くんの練習をこんな間近で見れるやなんて!たまら~ん!」
「国内で世界のトップ選手と一緒に練習出来るんですから、勝生さん様様ですよね!」
仲の良い2人は、昔から変わらない。
同じ大会に出ている時も互いに励まし、可能な限りは演技を観て応援、健闘を称え合っている。
それは決して悪い事ではないのだが、アスリートとしては些か闘争心に欠けるのではないだろうか、と純は密かに気になっていたのだ。
「何、眉間にシワ寄せてんの?」
「デコと違うて、まだ戻る」
「別にライバル関係だからって、ギスギスする必要はないと思うけどね」
「判っとる。でも…」
「あの子達だって、確固たる信念を持ってスケートしてるよ。単に勇利への憧れだけでなく、勇利と闘いたいって意志が凄く感じられる。お前と違ってね」
「うるさいわ」
現役時代の純は、偉大な先輩達に加え、何より同期に勇利という越えられない壁があったので、「僕じゃ世界を狙うんは無理や」と、早々にリミットを決めてしまっていたのだ。
「健坊や礼之くんには、僕と同じ轍を踏んで欲しゅうない。あの優しさが仇にならんとええけど…」
「起こってもいない事で悩むの、お前の悪い癖だよ…ん?」
突如リンクサイドから湧いた笑い声に、ヴィクトル達は視線をその主である勇利と優子に移す。
「どうしたの?」
「あのね、今南くん達がリンクにいるんだけど…」
「違うて、勇利くんのステップの入りはこうや!」
「南さんだって違いますよ。勝生さんの3Aのアプローチはこうです!」
リンクの上で言い合いながら、南と礼之が勇利の動きを模倣していたのだ。
「何だか懐かしいよね」
「最も今の南くん達の方が、当時の僕達より遥かに上手だけど」
「うん、割と良く再現出来てる。…心配いらないね」
「…ああ」

子供の頃、ヴィクトルの滑りを真似して遊んでいたのを思い出して笑う勇利と優子と、中々の観察力と技術で勇利の技を再現するリンクの2人を、純は右頬に笑窪を作りながら見つめていた。
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