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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『負けない』


「純くん、あと頼みます!」
「任せとき」
「ごめんなさい、勝生さん!」
「大丈夫!」
空瓶を一定の間隔に並べたリンクで、スケーター達が2組のチームに分かれ、空瓶の間を片足だけで滑り抜けていくというリレーの行方は、アンカーの純と勇利に託された。
途中で瓶を倒した時は、戻してからでないと先に進めないルールがあり、勇利の前に滑走していた礼之が、南との勝負を焦るあまりアンカーの勇利にタッチする直前、瓶を1本倒して時間をロスしてしまったのだ。
「またとない好機や!勝たせて貰うで、勇利!」
「負けない!」
「勇利、ガンバ!」
「純もファイト!」
かつての同期の対決に、3姉妹をはじめ周囲の声援が飛び交う中、勇利の猛追をかわさんと、純も巧みな動きで瓶の間をすり抜けていく。
「勝生さんもだけど、上林さんもパネェ…」
「現役引退して結構経つのに、あんなに動けるなんて…」
「そりゃ、上林は伊達に昔勇利と1、2を争ってた訳じゃないからな」
「スピードは勇利に劣るけど、あいつのスケーティングとエッジ捌きは、現役選手達とも充分渡り合えるものだよ。つい競技ではジャンプに目が行きがちだけど、全ての基礎は『スケート』だからね」
呆気に取られている若手スケーター達に、リンクサイドの西郡とヴィクトルは、当然とばかりに言葉を返す。
そうこうしている内に、折り返し地点から戻ってきた2人は、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げていた。
「負けへんっ!」
「僕だって!」
ほぼ同時にゴールした2人だったが、審判を務めていた優子の「超接戦だったけど…僅か0.5秒差で勇利くんの勝ち!」という宣言に、勇利は雄叫びを上げ、純は坐り込むと天を仰いだ。
「悔しい!勝ちたかったのに!」
「あー、本当ギリギリだった…今ですら、純にスケートで敵わない部分もあるんだから、尚更負けられなかったよ」
呼吸を整えながら勇利が差し出してきた手を、純は少しだけ不貞腐れた顔で握り返す。

「…南さん、今からコンパルの練習に付き合ってくれませんか?」
「うん。おいもアレクくんと同じ事考えてた」
そんな勇利と純の後ろでは、次代を担う若者達が改めてやる気を漲らせていた。
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