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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


 『長谷津の王子様』


「やっぱ無理、出来ません!」
「僕らがついてますから、大丈夫ですよ」
「僕はともかく、純は普段から初心者向けのコーチもしてますから」
「勇利も協力せんかい!」

いつからかオフの長谷津で恒例的に行われるようになった『温泉on ICE』の宣伝も兼ね、勇利と純は、リンクを訪れたTV局の女性リポーターの取材を受けている内に、急遽全く経験のない彼女にスケートのコーチをする羽目になった。
(何の段取りも打ち合わせもなしで初心者にいきなり滑らせるて、コレにGO出した連中頭おかしいんと違うか)
内心で毒突くも、純は怪我防止のヘッドギアやプロテクターを装備した姿で、リンクの縁に掴まったまま動けなくなっている彼女の傍まで近付いた。
「はじめはみんな初心者です。思い切って、僕の手ぇ取ってみて下さい…そうそう、ゆっくりでええですから顔上げましょか。足元ばっか見とると、重心が下がって却ってコケ易いですよ」
「頭では判ってるんですけど…きゃあっ!」
「おっと」
早速バランスを崩し転倒しかけた彼女を、純は背後から支える。
「初めてやのに、よう頑張ってはりますよ。ほんなら、もう少しだけ気合い入れてみましょうか」
「ど、どうやって?」
「僕に掴まったまま、顔上げて下さい」
極力優しく言いつつ、純は彼女の死角から前方の勇利に鋭い視線をやる。
(そこでボーっと突っ立っとらんと、早よやらんかい)
純の眼力に背筋が寒くなるのを覚えた勇利は、暫し頭の中で何かを考えた後で滑り出すと、2人の前で3Aを披露した。
「ぼ、僕の胸に飛び込むつもりで来て下さい!背中は純が守ってくれますから、心配いりません!」
「は…はい!」
勇利のジャンプを間近に感激していた彼女は、更に勇利の言葉と広げられた腕を見て、興奮気味に足を動かし始めていた。

「俺にはこんな気の利いた事言わない癖に」
どさくさ紛れで勇利に抱きつく女性リポーターの録画を見ながら、ヴィクトルがむくれた表情をする。
「普段、ファンサしろって言ってるじゃない。それに、ヴィクトルは僕が言う前に飛び込んでくるし」
「それでも、俺は言って欲しいの!」
「痴話喧嘩は他所でやり」

番宣の効果か、その年の『温泉on ICE』も大盛況だったという。
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