第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『花より団子とついで?にスケート』
純の実家は代々続く京都の老舗であり、裏では「京都で上林を知らぬ者は、余所さんかモグリ」とも言われている。
オフに純のいる京都を訪れた勇利とヴィクトルは、盛大な祭りの様子を、彼の実家の2階から眺めていた。
「純は、お祭りのお稚児さんとかやった事ある?」
「姉ちゃんと兄ちゃんはそれぞれの祭りでやっとったけど、僕はしてへんよ」
「何でお前はしなかったの?」
「滅茶苦茶お金かかんねん。ただでさえスケートで金食い虫やのに、更に家族に負担なんてかけられへんかったわ。特にお稚児さんは、祭りまで神さんの遣いとしての生活を強いられるから、自分の足で歩いたらアカン、家族相手でも女人禁制で、その間スケートもピアノもできひんようになるし」
そう答える純に勇利が感心していると、お茶菓子を出しながら、彼の姉が口を挟んできた。
「何えらそな事言うてんの。アンタがお稚児さん断ったんは、友達のお誕生パーティーに行かれへんようになるからやないの」
「勇利達の前で人聞きの悪い事言わんといてくれるか!?それも理由やけど、一番はスケートや!」
「で、でも純がその友達の事大切に思ってたからでしょ?」
「違うねん、勝生くん。単にこのコの食い意地が張っとるだけや」
「どういう意味?」
ヴィクトルの質問に、純は恥ずかしそうな顔をすると、ボソボソと言葉を返す。
「勿論、友達も大事やったけど…その子のお母さんの作る料理と、特にケーキがめっちゃ美味しかってん。バタークリームやのに、全然しつこくなくてフワッフワで」
「あはは。純、小さい頃からスイーツ好きだったんだ」
「そのせいで、今でもそのオバちゃんから近所で会う度『純くんがよう食べてくれはったから、作り甲斐がありましたわ』て、言われんのやで。恥ずかしい」
「せやって、ウチでは食べられへんような料理やスイーツばっかやってんもん!子供なら夢中になるの当たり前やろ?」
「食いしん坊は今もやろ!ウチらが、アンタにひもじい想いさせてたとでも言うんか!」
外の祭りの喧騒とは大違いな姉弟喧嘩を、勇利は何処か身につまされつつ傍観していた。
※姉の言う通り、単に純の家では洋食・洋菓子の割合が低かっただけ。