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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『怪物とアイスドール』


プロ・アマ混成チームも認められたジャパンオープンに参戦した純は、現役引退後暫く味わっていなかった試合の緊張感に、心地良さと静かな興奮を覚えていた。
「…久々やわ。この感覚」
のんびりとした友人の語気が強められた事に気付いた勇利は、つと顔を上げた後で僅かに表情を正す。
「シーズン開始直前のお祭りマッチやいうても、しあいはしあいやからなあ」
「今、絶対『試合』って言ってないでしょ」
「さあ…?どやろか」
ゆらり、と純の周囲を取り巻く様々な気に、勇利は昔を思い出しつつも、『漆黒の怪物』に相応しい笑みを浮かべた。

「大分成長期が落ち着いたようだが、思ったほど伸びていないのだな」
「うっせぇ!近い内にお前を身長でも見下ろしてやるからな!」
欧州チームとして参加していたユーリは、プロ枠から参加した北米チームのJJの相変わらずの態度に、苛立ちながら返す。
「今回、日本はカツキと一緒に例の彼が出るそうだな。オタベックがボヤいてたぞ?『ユーリが辞退すれば、俺が出られたのに』と」
「サユリと試合できるチャンス、逃す訳ねぇだろ」
かく言うユーリも始めは乗り気ではなかったのだが、日本チームのメンバーをヤコフに知らされるや否や、「誰にもやるんじゃねぇ!その出場枠は俺のモンだ!」と興奮混じりに声を張り上げたのである。
「シーズン開始前の腕試しだ。幾らサユリでも、立ちはだかる奴は容赦しねぇ」
「おっと、このキングを忘れちゃいないか?」
「──お前は俺の視界に入ってくんな」
言い合いながら控室の扉を開けた2人は、そこに漂う妙な気配に思わず目を見張る。
「…どんな形であれ、これはまさに真剣勝負の『死合』や。同じリンクに立つからには、現役もプロも関係あれへん。舐めた真似しとるスケーターがおったら…僕が斬るわ」
「何だか嬉しいな。久々に試合…ううん、『死合』モードの純に会えたよ。僕も負けないから」
「ふふ、それでこそ勇利や」
不敵に笑い合う勇利と純に、不覚にも一瞬気圧されそうになったが、
「日本の『怪物』と『アイスドール』か…油断してると足元を掬われそうだな」
「勝手に1人で掬われてろ。あいつらは、俺が全力で倒す」

即座に表情を引き締めた2人は、これから始まる『死合』に胸を踊らせていた。
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