第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『ギフト・天国と地獄?』
ユーリと礼之から「今までの感謝の気持ち」と、グランドピアノをモチーフにしたネクタイピンをプレゼントされた純は、嬉しさとその他様々な感情に涙ぐんでしまった。
「僕なんかの為に、君らの貴重なお金を使わんでも…」
「2人で出し合ったから、充分予算範囲内です。僕達純さんには、これまでずっとお世話になりっぱなしだったから」
「あんま高価なモンだと、サユリ受け取ってくれなそうだしな。礼之と手頃な値段でサユリの好きそうなヤツ、探すの結構苦労したんだぞ?」
「アホ!そんな暇あったら自分達のスケートをもっと素敵に磨きなさいっ。ホンマに、もぅ…」
可愛い後輩とロシアの悪童の成長ぶりに、とうとう言葉が続かなくなった純は「おおきにな」とぽそりと呟くと、ひとしきり嬉し涙を零していた。
数日後。
早速2人に貰ったプレゼントをつけて、とあるスケート関係のレセプションに出かけた純は、同席していたヴィクトルに、やけに冷たい視線と言葉をぶつけられた。
「それって、近い内に『振付師お疲れ様でした。終わりにしよう』って言われる前触れじゃないの?」
「ンな訳あるかいな!あのコらの気持ちを否定する事言うなドアホが!」
「だって、俺がそうだったもの」
続けられたヴィクトルの言葉に、彼の隣にいた勇利が気まずそうに視線を反らした。
「普段無駄遣いしない勇利が、俺の為に指輪をあんなシチュエーションとロケーションでプレゼントしくれて舞い上がってた矢先に、地獄のどん底に突き落とされた俺の気持ち判る!?」
「何でそんな真似したん?デコ相手に命知らずな」
「いや、その…あの時はまだ僕達付き合ってなかったよね?」
「右手に指輪嵌めて貰った時点で、オツキアイが成立したと俺は思ってたよ!…ああ、思い出したら益々腹立ってきた。ムカツク!」
怪しげな発音の日本語で癇癪を起こしたヴィクトルを、勇利と巻き込まれた純は慌てて宥めにかかった。
一方その頃、
「凄く喜んでくれてたね。例え他人が見たら玩具やガラクタ扱いでも、純さんにとって宝物の1つになってくれたら嬉しいな」
「…ああ」
かつての未熟な悪童だった頃の自分を脳裏に反芻させながら、ユーリは少しだけ気まずそうに礼之に返事をした。