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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『愛人の気概』


とある雑誌に掲載された勇利のグラビアには、数カットだけ純との2ショットも写っていた。
撮影中、カメラマンやスタッフ達の提案で、単なる付き添いだった筈の純に急遽白羽の矢が立ったのである。
撮影用の衣装に身を包み、メイクを施された純の洗練された所作は、現役時代の『アイスドール』を彷彿とさせていた…表面上は。

「いーやーやー!マジで堪忍してえぇぇ!」
「いい加減、腹括りなよ。お前は、一応俺の事務所の預かりの立場なんだから、これオーナー命令ね」
「横暴!勇利との2ショットならデコがやればええやんか!」
「勇利のグラビアだし、俺だと契約その他に引っかかるから、今回は無理」
ヴィクトルに衣服を剥ぎ取られた純は、普段の外面は何処へやら、控室の椅子にしがみつきながら喚き続けていた。
「何でそこまで嫌がる?」
「リンクの上ならまだしも、とっくに引退した僕が勇利と一緒にグラビアなんかやったら、有る事無い事言われるわ!」
「好きに言わせておけばいいじゃない。お前も勇利とは違う方向で、自己評価低いよね」
「今ほどネットが発達してへん小さい頃から、一挙一動が町中に知れ渡り噂されまくる所で育てば、慎重にもなる!」
「お前のはただの卑屈。出来る事を出来ないって逃げる奴、俺大嫌い」
「ぅ…」
「俺がお情けでやらせてると思ってたら、大間違いだからね。仮にも勇利の愛人なら、愛する男の為にひと肌脱ぐくらいの気概、見せられないの?」
ヴィクトルに言われた純は、心配そうに自分を見つめている勇利に視線をやる。
「無理しないで。僕は、純が昔からこういう事嫌いなの知ってるし、これは元々僕が受けた撮影だから」
衣装とメイクで男前度が上がっているせいか、勇利の真摯な眼差しに、不覚にも純は胸を躍らせる。
やがて、椅子から身体を離した純は、ゆっくりと勇利の手を取ると、消え入りそうな声で呟いた。
「嫌やけど…勇利の為やったら頑張る…」
「純…」
「コラっ!どさくさに紛れて勇利に近付き過ぎ!」

「自分の見せ方は、自分が一番よう知ってます」と、NGもなく見事撮影をこなした純だったが、終了後「もう僕の事は、鴨川か玄界灘に沈めてくれ!」と自己嫌悪に陥っていた。
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