第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『中にいるのは?』
現役最後の試合となった全日本選手権終了後。
年末年始を勇利と過ごす事になり、京都から長谷津に到着した純は、検疫その他の都合で勝生家に残っていたマッカチンと対面した瞬間、1オクターブ程裏返った声を上げると、玄関に坐り込んだ。
「いやー!生のスタプー!モコモコやー!めっちゃかわええし、おっきいーっ!」
犬好きだと判るのか、尻尾を振るマッカチンの巨体に、純は全力で抱き着く。
「ぶ、ブラッシングしたげてもええ…?」
「…どうぞ」
マッカチンの顔や身体全体をワシワシさせつつ、すっかり顔がニヤけてしまっている純に、勇利は、やや顔を引きつらせながらブラシを手渡す。
「純くん、そこ寒いから家の中でやりな」
早速勇利から受け取った犬用ブラシを構えた純に、真利が半ば呆れながら声をかけた。
敷物の上にマッカチンを坐らせた状態で、純は嬉々とした表情でブラッシングをしていた。
話していく内に、純も数年前まで犬を飼っていた事が判り、暫し互いの愛犬話で盛り上がる。
「僕の飼ってたブルテリアの『あおいちゃん』や、勇利の飼ってたトイプーちゃんに比べると、ホンマにこの子のデカさは規格外やな」
「これだけ大型だと、実は中に人が入ってますって言われても、違和感ないよね」
「実際、『中に入ってるのはおっさんです』的なスタプーの画像あるしな。でも、こんだけ外身がかわええなら、中にオッサン入っててもええわ」
「もしかしたら、帰国したフリしてて実はヴィクトルが入ってましたー!とかね。あはは」
「…ふふふ。面白い事言うなあ、勇利は」
「…スミマセン」
口元は笑っているが、荒れ狂う真冬の夜の玄界灘並みに凄みを帯びた純の瞳の色に、勇利は反射的に謝罪の言葉を口にしていた。
NEXT TO『Wife vs Lover(激突!皇帝VS風雅人・長谷津冬の陣)』