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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『ダチへの、恩返し』


純自身は、本業は振付師のつもりでいる。
それでもスケーターとして滑れる内は滑っていこうと、自身と日本スケート界の為にもなるべくオファーは断らないよう努めているのだが、流石に依頼の数に比例して、いつまでも完全フリーランスのままではいかなくなってきた。
「引退した当初は、スケーターとして滑る事は考えてへんかったからなあ。勇利達のお蔭で色んな経験させて貰うてるのは嬉しいんやけど、そろそろ何処かしらに所属する事も考えんとな」
「純なら、スケーターの先輩達がいる事務所とかでも、充分やっていけると思うけど」
「あそこには、昔怪我して逃げてた僕の事を快く思うてない人達も結構おるからなあ。それに…そうした事務所に入ると、弥が上にもバラエティ的な番組その他に顔出さんとあかんようなるやろうし」
「純、昔から試合やショー以外で目立つ事好きじゃないもんね」
以前、オフシーズンにスケート雑誌で『ライバルのかつてと今』と題した勇利とのインタビューを受けた時は、最後の最後まで顔出しを渋っていた程である。
「とはいえ1から個人事務所作るには、僕とヒゲじゃ実績も力もなさ過ぎやし。何処かで妥協せなあかんのは判っとるんやけど…」
スケートや振付とは違う事で悩む純を、勇利なりに励ましている横では、蒼色の視線がその様子を捉えていた。

「…何て?」
「俺達の拠点を長谷津に移すから、俺のマネジメントの事務所を日本にも置く事にしたんだ。ついでにお前の事も登録しといたから」
余りの事に目を見開いている純に、ヴィクトルは得意げな顔をした。
「といっても、あくまでお前は俺の事務所の『預かり』になってるだけで、基本フリーなのは変わらないよ。でも、これで多少の煩わしさからは解放される筈だけど?」
「何でそんな…」
「…勘違いしないでくれる?これはあくまで勇利の為だから。下らない仕事をしてる暇があったら、少しでも勇利の振付に時間を使えって事。これ以上俺との差を広げられたくないだろう?」
「面白い事言うてくれるなあ。でも…おおきにな」
「だから、別にお前の為なんかじゃないってば!」
咳払いしながら横を向くヴィクトルに、純は右の頬に笑窪を作った。
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