第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『迷える?子豚に、ご飯とついでにパンと葡萄酒』
ヴィクトルの現役復帰に伴い勇利が拠点をロシアに移す事になり、純は、勇利への餞別にあるものをプレゼントした。
「なにコレ」
「プロの料理人も勧める多機能炊飯器や。パンも焼けるらしいけどな。良い炊飯器で炊いた方がお米は美味いで。ロシアの料理もええけど、手軽に食べ慣れたご飯も食いたいやろ?」
ロシアでも使用できるよう変圧・変換器付で渡されたそれを勇利がしげしげ眺めていると、ネット電話越しにヴィクトルの胡散臭げな声が聞こえて来る。
「ピーテルならお米や日本の食料品は手に入るんだから、わざわざ日本から炊飯器持ち込むほどの事?」
「日本人のコメにかける情熱、舐めとんのか!あんたらのワインや、無駄に種類の多いサワークリームと同じ括りや!」
「さり気にスメタナdisるのやめてくれる!?」
「2人とも落ち着いて!」
「アメージング!凄いよコレ、お米の輝きが全然違う!」
すったもんだの末、無事勇利と一緒にロシアに渡ったその炊飯器は、勇利本人よりヴィクトルをいたく興奮、感激させた。
日々の食卓は勿論の事、仲間を招いての寿司パーティーや手作りパンなど、持ち主の勇利よりもはるかに有効的に活用していたのだ。
そして、ヴィクトルの引退後再び拠点を長谷津に移す事になった時には、「俺にコレ譲ってくれ!何なら言い値で買うから!」とせがむユーリの手に渡ったという。
「ちなみに純は、何でご飯炊いてるの?」
「実家は最新式の電化製品で、僕のトコは炊飯用の土鍋。昔は実家も土鍋やガス釜使うてたけど、年寄りや姪ちゃんもおるし、今の時代臨機応変にいかんとな」