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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『愛人の受難・2』


「競技者としての勇利の気持ちは判るで。けどな、ヴィクトルは勇利にとってただのコーチと違うやろ?」
内心「何で僕がデコの為にこんな事言わなあかんねん」と思いながらも、純は極力穏やかな声で勇利に諭す。
「オフの今やないと、一緒にプライベートで出かけるなんて出来ひんやんか。コーチに教え子として結果出すんもええけど、パートナーとプライベートを充実させるんも、大切な事と違うか?」
「うん…」
「むしろ、オフはオフで割り切って楽しんだ方がええ。心身共にリフレッシュして、シーズンに備えな」
「…そうだね。で、もう一度訊くけど…ヴィクトルは純の所にいるの?」
こちらを窺うような勇利の声と、小首を振り続けるヴィクトルの姿を確認した純は、ひと呼吸置いた後で次のように返した。
「堪忍、その質問には答えられへんわ。口止めされとるからな」
「って事は、いるんだね?」
2人のやり取りに「約束が違う」と声に出さずに抗議するヴィクトルを無視しながら、純は言葉を続ける。
「取り敢えず今日の所は預かるから、時間作ってとっとと回収に来なさい。それと…オフを好きな人とのんびり過ごしたいのは、君らだけやと思わんといてくれるか?」
「…あ、はい。すみません。明日以降また連絡するから。藤枝さんにもよろしく」
「僕よりも先に連絡取る相手がおるやろ、このドアホ!」
半ば叩き切るように通話を終えると、「嘘吐き、裏切り者」と喚くヴィクトルを、底の見えない井戸のような黒い瞳で一瞥する。
「僕は『デコがここにおる』なんて、ひと言も勇利に言うてへんで」
「俺は言葉遊びをしてる訳じゃない!…って、あ…」
「勇利やろ。早よ出んかい」
渋るヴィクトルを鋭い眼光で黙らせると、純は大きく息を吐きながらキッチンカウンターへ移動する。
「すまない、本当に助かった。俺の分も茶を入れてくれないか?『純ちゃん』」
「…効率悪いから、3人分一気に入れるわ。ブランデーティでええか?」
肩を抱き寄せてきた恋人に、純は仄かに頬を染めながら返した。
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