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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『愛人の受難・1』


「頼む、今すぐ帰って来てくれ」と切羽詰まったような藤枝からの電話を受けた純は、慌てふためきながら帰宅すると、靴を揃えるのも忘れてリビングに飛び込んだ。
「尚寿(なおひさ)さん!ナオちゃん!どないしたん!?」
「へえ、『ヒゲ』さんの事そんな風に呼ぶんだ♪」
マッサージチェアに揺られながらこちらをニヤニヤ見ていている闖入者と、リビングのソファに心底疲れ切った表情で坐る藤枝を見比べた純は、無言でマッサージチェアの虜となっている銀髪の男に近寄ると、彼の腕に親指を食い込ませた。
「ただでさえ俺傷ついてるのに、ピンポイントで痛点攻めるって酷くない!?」
「知るか!何ヒトん家で寛いどんねん!」
「前にロシアからお前の荷物送った時に、ここの住所教えて貰ったじゃない」
「僕は、何で約束も招待もしてへんのにデコが家におんねん、て訊いとるんや。いくらオフでも長谷津で勇利と新しい振付確認せなあかんやろ!?」
「…知らないよ、あんな判らず屋」
勇利の名が出た途端、ヴィクトルはまるで拗ねた子供のような顔をした。
「貴方のプライベートに口を出すつもりはないが、勝生のコーチとしてそれはどうかと思うぞ」
「ちょっとの間なら、俺がいなくても勇利はキチンとノルマをこなすよ!何たって練習の虫だし!」
「その『ちょっとの間』を、僕らの家で過ごすいうんか!?」
その時純のスマホが鳴り、画面を確認すると勇利の名前が表示されていた。
純の視線に気付いたヴィクトルは、「俺がここにいるって言わないで!」と首を振る。
憮然とした顔のまま純はスマホを操作すると、「もしもし、勇利?」と努めていつも通りに応答した。
「純?突然ゴメン、そっちにヴィクトル行ってない?」
「一体どないしたん?」
予想通りの質問には答えず、純は勇利に問い返す。
「僕のせいなんだけど、喧嘩しちゃって」
「スケートの事でか?」
「ううん、オフの過ごし方について…かな」
競技者としては長老枠に入りつつある勇利に、ヴィクトルは若い頃以上に休養の大切さを説き、バカンスへ誘おうとしたのだが、どうしてもスケート靴を持たずに長期の旅行へ出かける事に抵抗を覚える勇利と、些細な口論から大喧嘩に発展したのである。
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