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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『少しだけ未来の話』


その年の世界選手権。
勝生勇利は見事5連覇を達成し、有終の美を飾る形で現役を引退した。
長年にわたる競技生活での隠し切れない疲労や、慢性化してきた足腰の痛みなどを抱えていた勇利は、そのシーズンで何年かぶりにGPF進出を逃すなど、決して順風満帆という訳にはいかなかったが、コーチのヴィクトルや振付師の純、その他様々なサポートや応援を受けて、世界選手権前に行われた世界規模の大会では、SPでの出遅れを巻き返す意地の台乗り、そして今大会の優勝を勝ち取ったのである。

「『まだ、できるだろ?』」
表彰台で何処かホッとした表情をする勇利の隣から、流暢な日本語の呼び掛けが聞こえてくる。
「『これで勝ち逃げなんて、許さない。GPFの決着だって、つけてない』」
「『今季のGPFは、ユリオが勝ったじゃない』」
「『トータルだと、カツ丼の方が勝ち数多い!だから、来シーズンも…まだ、一緒に…っ』」
「ユリオ…」
堪え切れずに涙を零すユーリの反対側では、3位に入った礼之が気遣わしげに視線を送るも、そんな彼の瞳にも涙が滲んでいた。
「勝生さん…」
2人の若者の顔を見比べながら、勇利は1つ息を吐くと両手をゆっくりユーリと礼之の肩に乗せる。
「…あの時のヴィクトルやクリスの気持ちが、良く判ったよ。今度は、僕の番なんだ」
「…?」
「ユリオ、礼之くん、有難う。最後の試合で優勝目指して競い合った相手が君達で、本当に良かった。2人がいたから、僕も最後まで頑張れたんだ。有難う…本当に」
「…っ…カツ丼…カツ丼……勇利、勇利っ!」
「勝生さん!かつきさぁん!…うわああああ!」
表彰台の両端から泣き声を上げて縋り付くユーリと礼之を、勇利は瞳にうっすら涙を浮かべながら抱き寄せていた。

「おーお、トシ取って涙もろくなったんか?」
「ハンカチ2枚目濡らし始めてるお前に、言われたくないよ!」

そんな表彰台の光景を他所に、リンクの外では相変わらずの『正妻』と『愛人』が、涙声で舌戦を繰り広げていた。
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