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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『頭隠して、スケート隠さず』


選手時代は地元のローカルCMや、現在でも実家の稼業関連でちょっとしたポスター撮影等の経験はある純だが、本来試合やショー以外で目立つ事は、あまり好きではない。
「ただでさえ、小さい頃から何処で誰が自分の事見てるか判らんような環境で育ったのに、必要以上に煩わしいのは堪忍」というのが持論だが、逆に自分の顔さえ映らなければ、そうした類のものに参加するのはやぶさかでないともいう。
「昔ピアノのセンセに頼まれて、スタンドインやった事あんねん。俳優さんがピアノ弾くシーンで、手のアップになった所とか」
「じゃあ、そのドラマで純の手が映ってたんだ?」
「そうそう。手にドーラン塗られて、上からライトバシバシに当てられるから熱くてな。念の為に指の毛も剃られたわ」
「毛深かったの?」
「僕らアジア人は、アンタらと比べて色が濃いからや。めっちゃ生えてても目立たん奴はええなあ」
「俺だって、別に毛深くないよ!」
茶々を入れてきたヴィクトルに、純はさらりとカウンターをする。
「そういえば、純もショーに出るようになってから、スポンサーやCMの話が来てるって藤枝さんから聞いたけど」
「幾つかな。確かに有難い事やけど、まだ考え中や」
「お前もそろそろ、ちゃんとしたプロダクションに所属した方がいいんじゃないか?本業が振付師とはいっても、まだ滑ってるんだし」
「うーん…まあ、おいおいな」
現役選手の勇利と、引退してもなおスケート界の大スターであるヴィクトルとはまるで立場が違うので、純は今一つ実感が湧かず曖昧に返した。

その後、地域限定ではあるがとあるファーストフードのCMが、スケオタの間で話題になっていた。
「顔見えないけど、これ絶対純くんだよね?」
「むしろ上林じゃない理由があるのかw」
新作コーヒーの宣伝をするそのCMでは、コーヒーカップのオブジェを頭に被った男性スケーターが、カップに注がれたミルクの渦とリンクするように華麗なドーナツスピンを披露していたのだ。

「…一切顔見せてへんのに、何で僕ってバレたんやろ?」
「「「むしろ何でバレないと思ったの?」」」
頭を抱えている純に、勇利や藤枝をはじめ国内外問わず多数の友人知人から、一言一句違わずツッコミが入った。
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