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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第4章 番外篇・僕と『ヒゲ』


『KISS&CRY』


「このジャパンオープンで、一夜限りの復活を果たした『氷上の風雅人』上林純!見事な舞で会場を魅了しました!」
興奮じみたアナウンスに、勇利達日本チームの選手に限らず会場の至る所から歓声が湧き起こった。
会心の演技を終えてキスクラに戻ってきた純を、藤枝は努めて無表情に迎える。
久々の競技会モードの演技を終え、疲労困憊の純が汗を拭っていると、小さな囁きが聞こえてきた。
「礼を言うぞ、純。俺をもう一度、お前のコーチとしてこのキスクラに坐らせてくれた事に」
「…ヒゲ?」
「今でも時々思う。もしもお前にもっと早く膝の手術を受けさせていたら、力づくでもお前に競技を続けさせていたら…とな」
「…」
「勿論、今だからこそお前がこうしてここにいるのも判ってる。どうやら俺は、自分が思ってるよりずっとスケーター上林純に惚れていたようだ」
言いながら苦笑した藤枝は、純に向き直りながら拳を突き出す。
「本当に良くやった。今まで見た中でも最高の演技だったぞ」
現役時代からのやり取りを思い出しながら、彼の拳に自分のそれをコツリと合わせると、自然に純の目から涙が零れてきた。
「…ごめんな。もっともっと、貴方と一緒にキスクラに坐れたら良かったのに」
「いや、俺がない物ねだりをしてるだけだ。お前は今でも俺の傍にいて、スケートに関わり続けている。…それで充分なのにな」
拳を解いた藤枝は、純の目尻の雫を拭うとついいつもの癖で顔を近付けようとしたが、瞬時に思い直すと代わりに純を抱き寄せる。
涙を止められない純は、それでも口元を綻ばせたまま、唯一無二のコーチで最愛の男の胸にその身を預けていた。

「ちょっとお二人さん。それ以上はホテルか自分達の家でやんなよね」
「お前とカツ丼に比べりゃ、全然大人しい方じゃね?」
「反論できない気がなきにしもあらずだけど、純があそこまで無防備なのって、珍しいんだよね。流石は藤枝さんというか…」

ヴィクトル達が揶揄する中、早くもスケオタ関連のSNSは、キスクラの純達の話題で盛り上がっていた。
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