第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『色気の話』
「僕の姉ちゃん、元々勇利の事気に入ってたけど、中でも『エロス』が一番好きなんやて。何でも『成人男性のさわやかな色気は貴重!』て」
「そうなんだ。ちょっと恥ずかしいな」
「そういう色気って、出そう思うて出せるもんやないしな。勇利のアレは、天性のものと違う?」
「そういう純も、現役時代は『アイスドール』って言われてたじゃない」
特に代名詞とも呼ばれる『SAYURI』を滑る時の純は、「リンクの温度が下がる」と周囲に言われる程影響と存在感を与えていたのである。
「僕に対しては『アンタのは、無味無臭過ぎて色気の欠片もあれへん』てバッサリや」
「それは家族で姉弟だから、あえてそう言ってるだけじゃない?」
「…そもそも『姉ちゃん』ていう生き物は、弟に基本的人権がある事なんて、微塵も考えてへんからな」
勇利にも姉の真利がいるので、純の弟としての発言には、何となく身に覚えがあった。
「今の日本男子選手は、勇利も含めてカッコ可愛い系が多くて、眼福やわ♪健坊は可愛い中にもしっかり一本筋が通ってるし、礼之くんは、外見こそフィンランドのお母さんの血が強いけど、心意気は日本男児そのものやし」
「2人とも頑張ってるし、他の皆もこれから成長が楽しみだよね」
「そんな彼らをより魅力的に見せていくのが、僕の今後の役目や」
「僕の事もちゃんと数に入れてね?振付師さん」
少しだけ茶化すように言う勇利を見て、純は右の頬に笑窪を作った。
「えー、何々?色気の話?」
「わひゃっ!?」
「ひっ!?」
「それなら遠慮しないで、俺達に幾らでも聞いてくれたら良いのに」
「もぉ、何度もそれやめてって言ってるのに!」
「あんたらみたいな無駄に『濃ゆい』のを、僕らの可愛い後輩に近付けられるかドアホ!」
いつの間にいたのか、背後からヴィクトルとクリスの襲撃を食らった2人は悲鳴を上げた。