第4章 番外篇・僕と『ヒゲ』
『お料理系男子スケーター養成術?』
「コイツは何にもできねぇぞ」
「何にもできません…て、昔に比べたらマシになったやろ!」
「昔よりはな」
オフシーズンに大阪で開催されたアイスショーの後、市内にある純と藤枝の暮らす家で、勇利達はたこ焼きパーティーに招かれていた。
糖質などを考え米粉と豆腐で作った生地や、具材も各々が好きに選べるように用意されていたので、ヴィクトルは勿論たこ焼き初体験のユーリや、普段あまり馴染みのない礼之も楽しんでいた。
材料の切り分けや器用にたこ焼きを作る純を見て、ヴィクトルがからかい混じりに「『ヒゲ』さんは、純の料理に胃袋掴まれたの?」と藤枝に尋ねた所、微妙な表情と共に上記の言葉が返ってきたのである。
「恥ずかしながら僕、京都の末っ子の坊ンやったから、食事関係はお母ちゃんや姉ちゃんらに任せっきりでなあ」
「純も学校で家庭科あったでしょ?調理実習どうしてたの?」
「昔から食いしん坊やったから献立作りや味見に計量はするけど、作るんは同じ班の子らに任せて調理器具の後片付けしとってん」
「そーいや昔、ロシアでサユリの部屋泊まった時、あんまりにも手付きが危なっかしいから、晩飯作るの手伝ったっけか。だって、料理なのに理科の実験みたいなんだぜ?」
「ユリオくん、それ言うたらあかん~」
そんな純が藤枝の下でスケートを再開した当時、リンクでスケートの基礎をやり直す一方、当時は豊中市内で独り暮らしをしていた藤枝のマンションで、「いつまでも親御さんに頼ってばかりじゃいられねぇだろ」と、最低限の料理の基礎も叩きこまれたのである。
「ま、お蔭さんで『男の料理』レベルは何とかできるようになったから、そこは感謝やけどな」
「元々がサボリ過ぎなだけだ。お前は頭が良いし舌も肥えてんだから、ちょっとやりゃできんだろ」
軽口を叩き合う純と藤枝を見比べると、ヴィクトルはわざとらしく1つ息を吐くと呟く。
「…なーんだ。つまり『ヒゲ』さんは、コイツにスケート教えつつ、自分の嫁にするべく仕込んでたって事か」
「ゑっ!?」
「ぶはっ!な、違っ、俺は…」
「──ごちそう様でした」
赤面したりむせ返る2人を他所に、自分の皿を空にした礼之が、厳かに手を合わせていた。