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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『大きな人』


そのシーズンの国別対抗戦を最後に、南健次郎は現役を引退した。
『漆黒の怪物』勝生勇利の引退後は、日本男子の精神的支柱ともなって若い選手達を牽引し続けた南の引き際に、会場の誰もが惜しみ無い拍手を贈る。
「みっ、みなみさんっ、ぅ、うえぇ…ふぐっ!?」
そのような中、南と同じく日本チームとして出場していた礼之は、表彰式の最中にとうとう堪え切れなくて泣き出してしまうが、直後脳天に手刀が落ちた。
「男がメソメソしてんじゃねぇっ!お前がそうやっていつまでも泣いてたら、ミナミが安心して引退できねぇだろうが!」
「…!」
「ガキの頃からずっと世話になったんだろ?だったら、ちゃんと礼言って見送ってやれ」
隣のユーリから容赦のない一撃と叱咤を食らった礼之は、溢れ続ける涙を手の甲で乱暴に拭う。
2人のやり取りを目を丸くさせながら見つめる南の視線に気付いたユーリは、少しだけ気まずそうな顔をした。
「悪ぃ…大声出して」
「ううん。お陰で涙が引っ込んだとです。おいも、しんみりは好きやなかですけん」
「あのよ、」
俯き加減に再度口を開いたユーリは、暫くモゴモゴした後で話を続けた。
「シニア上がったばっかの頃の俺って、凄ぇ生意気だったのに…お前はそんな俺にも、いつも笑顔で声かけてくれたよな。遠征先であんま親しい奴がいない時でもゲームに誘ってくれたり、俺の事さり気なく励ましてくれたり…」
「いや、おいの言葉なんてユリオくんには気休めにも」
「んな事ねぇ」
「え?」
照れ隠しに手を振る南に、ユーリは向き直る。
「お前は、見た目は小せぇけど凄ぇでっけぇ奴だ。今まで本当に…『ありがとう』」
「ユリオくん…」
「ユリだって泣いてんじゃん!」
「うっせぇ!俺のはただの貰い泣きだ!」
か細く告げられたユーリの日本語に、南は目尻にうっすら涙を滲ませながらも嬉しそうに微笑んだ。

今後の南は大学に復学、医師国家試験を受け将来はスポーツドクターを目指すという。
「長い道のりですけん、その分やり甲斐があるとです!皆が怪我や病気で困った時には、力になれるよう頑張ります」
「はいはいはい!その時は僕、真っ先に南さんの臨床材料になります!」
「ケガする気満々になってんじゃねぇよ」

表彰式が終わった後も、小柄な南の周りには沢山の選手や関係者達が集まっていた。
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