• テキストサイズ

【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『梅雨籠のサムライ』


「今年もできました!採点お願いします!」
小ぶりのグラスに入った梅シロップのジュースを祖母の遺影の前に供えると、礼之は手を合わせる。
そんな礼之の後ろでは、色違いの対のグラスを手に祖父が微笑ましく見守っていた。
シニアに上がると同時に家族で日本に帰国した礼之は、その頃からオフには祖母の形見のレシピを元に、梅シロップと梅酒を作るようになっていた。
地道な作業は嫌いではないし、スケートから離れて手先を動かす事に集中できて、良い気分転換になるからだ。

「何で梅酒よりシロップの方が圧倒的に多いんだ?」
「うちの家族、お母さん以外皆お酒に弱いから。昔おばあちゃんの作った梅酒が、未だに半分以上残ってるくらいだし」
「ちょっと勿体ねぇ気もするな」
「僕が一生かけて飲み切るよ。料理にも使えるしね」
以前、親戚のダーチャで一緒に畑のベリーを詰んで果実酒とジャムを作った事を思い出しながら、ユーリは礼之の作った梅シロップのソーダを一口飲む。
「明日から、『温泉on ICE』に備えて長谷津だね。ユリも準備できてる?」
「朝までに間に合えばいいだろ」
ユーリはそう返事をしながら、ふと空き瓶が纏められた場所に、見覚えのあるラベルを見つけた。
「コレ、ヴィクトルの野郎がよく飲んでる銘柄じゃねぇか?」
「えっ」
自分の問いにギクリとした礼之を見たユーリは、次いで彼の荷物の中に液漏れ対策を施した密閉瓶とその中身に気付くと、眉をつり上げた。
「何でお前があのジジイにも梅酒作ってんだよ」
「た、頼まれたんだ。前にお裾分けしたら気に入ったみたいで」
「あんなヤツにバカ正直にやんなくていいだろ」
「材料の焼酎も貰っちゃったから、そういう訳にはいかないよ。それと引き換えにジャンプのコツを…」
「今なんつった!?」
慌てて口を噤んだ恋人に、ユーリは更に詰め寄った。

「サムライくんの梅酒、サイコー!ウォッカで割るのがまた良いんだ♪新しいのも飲める日が楽しみだよ」
「ロシア人はそんなえげつない割り方するんか」
「礼之くん、顔どうしたの?」
「ちょっと猫ちゃんに…ユリ、もう勘弁して」
口をハートマークにしながらグラスを傾けるヴィクトルを後目に、勇利は顔に引っかき傷を作りユーリに蹴られ続けている後輩を、気遣わしげに眺めた。
/ 230ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp