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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『フクースナ!』

東京で開催されたGPS日本大会終了後、勇利は会場から少し離れた通りでひとり佇んでいた。
今回は何とか台乗りする事ができたが、その前に出場したカナダ大会でまさかの台落ちをした勇利は、何年かぶりにGPF進出を逃していた。
師弟関係を結んだ当初のヴィクトルの年齢をも超えた現在の勇利は、長年の競技生活からの隠し切れない疲労や古傷を抱えていたのだ。
ヴィクトルは「全日本への調整期間が増えたと前向きに考えよう」と言っていたが、着々と近づきつつある自分の競技人生の終焉に、ほんの少しだけ厭世的な気分になる。
その時、
「こんな所で何してやがる」
「ユリオ。それに礼之くんも」
背後から声をかけられた勇利は振り返ると、見知った2人の若者の姿を認めた。
「お前はもう年だからとか言い訳できるけど、俺なんかFSノーミスだったのに礼之に逆転負けしたんだぞ。だから、カツ丼が俺より落ち込む資格なんかねぇんだよ!」
「ユリと勝生さんのいる試合だから、尚更負けられませんでした。それより…」
礼之に促されたユーリは、思い出したように保温バッグから何かを取り出すと、勇利の前に突き出す。
「食えよ。ちょっと過ぎちまったけど、誕生日だっただろ」
「え?」
勇利が温かさの残る紙袋を開けると、中から少し形状は異なるが、何やら懐かしい食べ物が現れた。
「ユリ、日本大会が東京で日程が勝生さんの誕生日と被るって知るや否や、僕の家のノンフライヤーとオーブン貸してくれって言ってきたんですよ」
「う、うるせぇ!俺はただ今のカツ丼に配慮してやっただけだ!」
含み笑いを零す年下の恋人に声を荒げるユーリを横目に、勇利はノンフライヤーで揚げたカツ丼入りの焼きピロシキを一口食べる。
否や口中に広がる旨味と脳裏に甦った思い出に、自然と勇利の頬が緩んだ。
「ユリオ、これとっても美味しいよ。フクースナだよ!」
「お、俺が作ったんだから美味いに決まってるだろ」
「良かったら、皆で食べよう」
そう勇利に誘われて、2人は分け合ったピロシキを口にする。
「有難うユリオ。ちょっと足踏みしちゃってたけどもう迷わない。残りの試合、全力で君達を迎え撃つよ」
「僕も、頑張ります!」
「…けっ。そうでなきゃ潰し甲斐がねぇっての」
あの時と変わらぬ勇利の笑顔に、ユーリは憎まれ口の裏でこっそりと頬を染めていた。
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