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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『少しだけ昔の話』


その年の全日本ジュニア選手権では、若干15歳の天才と呼ばれる2人が、表彰台の上でワンツーフィニッシュを飾った。
準優勝は女子顔負けの柔軟性を誇る上林純、そして優勝したのは既に世界の舞台でも活躍を始めていた勝生勇利である。
「『西の勝生』と『京の上林』か。この2人なら、今後シニアでも充分期待できそうだ」
「夏の合同合宿でも、コーチ陣から目をかけられてたからな。特にあの例の2人に」
「ああー、現役時代も今もライバル関係で火花散らせてるあいつらか。もしかしたら、近い将来互いが互いのコーチになったりしてな」
表彰式を済ませた純と勇利は、軽く挨拶だけかわすとそれぞれの場所へ戻っていった。
「おめでとう!きっと勇利くんなら優勝するって思ってた!」
「あ、有難う。優ちゃんも、これからフリー頑張ってね」
「何とかSBは目指すけど、私と勇利くんじゃ大違いだよ~」
密かに淡い想いを抱いている優子から祝福の言葉をかけられて、勇利はしどろもどろに返事をする。
「でも、噂には聞いてたけど純くんも凄かったね。男子であそこまで身体が柔らかい選手って、中々いないかも」
「…うん。確かにあのスピン、一瞬だけジュニア時代のヴィクトルみたいに見えた」
「もぅ!いつだって勇利くんは、ヴィクトルの事ばっかりやね」
半ば呆れたように笑った優子に、勇利は仄かに顔を赤らめながら俯いた。

荷物を片付けながら、純はリンクの向こうで女子選手と話をしている勇利を見た。
「今回も惜しかったなあ。流れに乗った勝生くんは手強いから、生半可な気持ちでは勝てへんで」
「判ってます。今後も、自分の技の正確性を増していくだけですわ」
「君は、いつでも冷静やな。その調子で次の試合も頑張るんやで」
満足そうに頷きながら自分から離れたコーチに、純は先程勇利に向けたそれよりも冷たい一瞥をくれる。

「…僕じゃ何をしても、勇利くんには勝てへんわ。第一あの子は、僕の事なんかまるで見てへんのやから」

その年の少年にはまるで似つかわしくない表情と声色で、純はそっと本音を漏らした。
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