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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『もう一度、一緒に』


鏡の向こうに映る自分の姿に、純はこみ上げてくる嬉しさを隠せず、右の頬に笑窪を作った。
夢みたいだ。
まさかもう一度、このジャージに袖を通す日が来るなんて。
「何、泣きそうな顔しとんねん」
「バカ、秋の花粉で鼻が痒いだけだ」
傍らで見守るように立つ藤枝を鏡越しに確認すると、純は愉快そうに笑う。
「堪忍な。あの時四大陸出とったら、もっと早う貴方にこの姿を見せてやれたのに」
「あの頃のお前は、その気すらなかっただろ。今だから、お前はここにこうして立ってんだ。後は無茶と油断だけはせず、目一杯楽しんで来い」
「有難う。貴方も僕の事見ててな」
「純、そろそろ行くよ」
揃いのジャージ姿で現れたかつての同期に、純は満面の笑みで頷いた。

『さあ、いよいよ始まりました。アマチュア選手とプロスケーターの混成も認められた日本・欧州・北米の3チームで競われるジャパンオープン!』
『何と今年の日本チームは、何年振りかにこの2人が揃いました!1人目は日本のエース、勝生勇利。そしてもう1人は…プロ枠から参戦の上林純です!』
JAPANチームのジャージを着た純の登場に、会場のあちこちから拍手と歓声が沸き起こった。
「来たなサユリ。カツ丼諸共ぶっ倒してやるから、覚悟しろよ!」
「胸借りるつもりで挑ませて貰うわ」
欧州チームのユーリが、挑発にしては好意的な表情で指を突き付けてくる。
「おっと、この俺様を忘れてないか?今回はJJも北米チームにエントリーだ!」
「うるせぇ、カナダ帰ってロブスター食ってろ」
「ははは、つれないな」
お得意のポーズをしながら、先の五輪を最後にプロに転向したJJの登場に、以前より露骨ではないものの、ユーリは悪態を返した。
「何だか昔を思い出すなあ」
「きっと、あの時以上に楽しくなるよ」
「…うん!そうやな!」
手を取りながら笑いかけてきた勇利に、純も彼の温かい手を握り返そうとしたが、
「ピピーッ!ハイそこ!俺の勇利にくっつき過ぎ!」
「同じチームで親交温め合うてるだけですが、何か?」
「ヴィクトルも今回ゲストスケーターなんだから、準備しないとだめだよ」
「その前に俺、勇利のコーチだもん」

試合を前に、早くもリンクではスケーター達が盛り上がっていた。
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