第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『ヤン車、喧々諤々。』
※超マニアックネタ注意。
東京でアイスショーが開催された翌日。
スケオタの間では、とあるスケーターの目情がSNS内でバズっていた。
『バルセロナの再現?ユーラチカが、オタベックと都内でタンデムしてる!』
『ちょwこれヤン車じゃねぇかww』
『最近だいぶ落ち着いてきたけど、ロシアンヤンキーの血が騒いだか?』
『ホーンもあれば完璧だったのにw』
『何気にオタベックも楽しそうだよね』
「このどアホおおぉ!ロシアンヤンキーとカザフの英雄が、日本のヤン車でバリバリマジ卍て、お前がついてながら何しとったんや!」
「先輩それもう死語…って、アンタその細身にどんな腕力と握力が…」
「サユリ、落ち着け!センセーマジで絞まってる!」
「俺達が我儘を言ったんだ!守道を責めないでくれ!」
憤怒の形相の純が守道の襟元を締め上げているのを、慌ててユーリとオタベックが止めた。
事の次第は、オタベックに同行して日本に里帰りしていた守道が、かつて行きつけだった個人経営のバイク店に彼らを案内したのが切欠である。
はじめは、店の周辺を公道走行OKな電動キックボードの試乗をしていたのだが、その内に店舗のガレージ奥に鎮座する一台のバイクを発見した。
それはいわゆる『ヤン車』と呼ばれる独自のカスタムを施した旧車バイクで、絞りハンドルにロケットカウル、三段シートという典型的な設えに「クソヤバイくらいイカしてる!」「観賞用ではなかったのか?」と、目を輝かせている2人に気を良くした店主が「乗ってみるか?」と促したのだ。
「俺は安全運転に努めた。ユーリと違ってな」
「ンだよ!オタベックだって、結構ノリノリでアクセルふかしてたじゃねぇか!」
「つまり、君らは楽しんでた訳やな?」
闇を孕んだ純の黒い瞳に見据えられて、オタベックとユーリは思わず口を噤む。
「まあまあ。俺も後ろで一緒に走って、2人に無茶はさせませんでしたから」
「レンタルバイク乗り回すのとは違うんやで?幾らオフやいうても…」
「ひょっとして先輩も乗りたかったんですか?」
「んな訳あるか」
「もしもアレが、SUZ●KIのGT380やGS400だったら?」
「お前殴り倒して、僕が乗る」
「…これだから感染者は」
間髪入れずの即答に、守道は表情を歪めた。
