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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『機械じかけのデート』


「俯瞰から、自分のスケーティングがどうなっているのかチェックしたい」と、撮影用ドローンを貸切のリンクに持ち込んだオタベックは、コーチや関係者に使用の許可を持ちかけた。
その際、ドローンの操縦及び撮影者として1人の日本人を連れており、「俺と同じ大学の留学生で、在カザフ日本大使の子息だ。彼の身の上は俺が保証します」と、もっともらしい口上を述べているオタベックを、その人物は半ば呆れつつ眺めていた。

「…で?どうして貴方はこういう面白そうな事を、俺に黙ってしてたんだ?」
「別に内緒でやった訳じゃなくて…君、遠征続きで暫くこっちにいなかったでしょ」
「俺のオフまで待つという選択肢はなかったのか?」
「いや、俺の金で買った物をいつ使おうと、俺の勝手じゃない?」
「俺だってドローンは欲しかったし、性能を知りたいと思ってたのに、貴方だけズルい!」
オタベックが海外に遠征中、かねてより注文していたドローンを受け取った守道は、大学の仲間とツーリングに出かけた時に、早速それで仲間の運転の様子やツーリング先の景色を撮影していた。
ドローンを入手した事は、オタベックのオフまで黙っているつもりだったが、ツーリングに行った仲間のSNSにより発覚してしまい、遠征から戻るや否や不機嫌な顔のオタベックが、守道の部屋まで押し掛けてきたのだ。
「暫く遠征はないから、俺とも一緒に撮影しろ」
「ツーリングは無理だよ?これから寒波が来てバイク出せなくなるし。大学構内なら…」
「そんなありふれた撮影場所で、俺が満足するとでも?」
「じゃあ、何処がいいんだよ?お互いの部屋じゃ使う意味ないだろう」
「…ドローンを飛ばせる広さは充分で、俺のコネがあれば貸切れる屋内の施設を知ってるんだが、どうだ?」
「まあ、それなら…」
承諾する守道に、オタベックはニヤリと口元を綻ばせた。

「まんまとしてやられたな」と苦笑しながら、守道はリンクのオタベックを機械越しに見下ろす。
時折天井カメラからスケーターを撮影する光景が見られるが、今氷上で軽やかに滑る彼を映しているのは、自分だけなのだ。
そんな仄かな優越感に浸っている守道が、ドローンのレンズから恋人が極上の笑顔を向けているのに気付くのは、暫くしてからの事であった。
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