第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『証かガラクタか』
GPFで久々に礼之と顔を合わせたユーリは、空き時間に彼がタブレットを凝視しているのを認めると、背後から覗き込んだ。
「何見てんだよ」
「ぅわっ」
尋ねながら礼之のタブレット画面に映るアクセサリーの数々に、ユーリは目を瞬かせる。
「買いてぇモンでもあんのか?」
「ないと言えば嘘になるけど…その、ユリは…こういうのって嫌かな?」
「え」
年下の恋人の呟きに、ユーリは思わず無防備な声を出す。
歯切れ悪そうに言葉を発した礼之が視線を動かすと、現役を退き今ではプロとなった勇利が、大会の特別リポーターとして関係者にインタビューをする姿があった。
慣れない仕事をこなそうとしている勇利の指に輝くリングに気づいたユーリは、様々な感情に眉を顰める。
勇利とヴィクトルは、ペアリング。
『サユリ』こと純は、『ヒゲ』さんから貰ったピアス。
そして、いつの間にか『センセー』こと守道と付き合っていたオタベックのブレスレット(「家族からのプレゼントじゃなかったのかよ」と突っ込んだら、「守道は俺にとって家族同然の存在だから、嘘じゃない」と、顔を赤らめつつ返してきた)。
大切なパートナーからの贈り物であるそれらは、彼らの絆の象徴でもある。
恋人として付き合い始めて結構な時間が過ぎ、この頃礼之がそうした類の物を時々気にしているような仕草を見せているのを、ユーリも知らない訳ではなかった。
だけど。
『家畜のガラクタが…!』
今なら、あの2人の絆とその証である指輪に嫉妬していたのだと判るが、かつて悪童三昧の日々を送っていた自分が放った暴言は、ユーリの脳裏と心を抜けない棘のように刺してくるのだ。
「…まあ、僕じゃまだそんなにいいモノ買えないんだけどね。ユリならもっと上等なの自分で買えるし、きっとユリのファンにも高価なプレゼントいっぱい貰ってるだろうから」
「それ、俺らよかずっと昔のスケーターの話な。お前が思うほど貰ってねぇっての」
集合時間になったので、礼之は苦笑しながらタブレットを閉じると、リンクへ行く支度を始める。
(いつか、お前からそういった物を贈られたとしても、俺にはそれを受け取る資格があるのか…?)
恋人の背を見送るユーリの胸を、新たな痛みが苛んできた。