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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『愛について ~Trust~』


現役最後の大会を有終の美で終えた『漆黒の怪物』勝生勇利を労う声は、試合後のバンケットでも止む事がなかった。
「暫くの間は地元で恩返しや親孝行がしたい」と語る勇利の傍に、ヴィクトルは当たり前のように控えていたが、自分が席を外した僅かな隙をついて、勇利に近付いた人物を見つけた。
「…ユリオ?」
今では勇利より背が伸び、アスリートとしても人間としても成長していた『ロシアの貴公子』は、かつて勇利に対して淡い想いを抱いていた事がある。
そんなユーリが勇利に何やら話しかけているのを、ヴィクトルは面白くない視線を送っていたが、やがて2人が人気のない場所へと移動し始めた事に、思わず足を急がせる。
だがその時、背後から軽く手を引いて自分を止めた人物を振り返ると、ヴィクトルは驚いた。
「今だけ貴方の勝生さんとの時間を、ユリに上げて下さい」
「サムライくん…」
「大丈夫です。ユリは貴方の事も勝生さんの事も…何より僕とユリ自身を裏切るような真似は、絶対にしませんから」
『青い瞳のサムライ』の確信に満ちた表情に、ヴィクトルは柄にもなく面食らった。

ユーリからとある告白を受けた勇利は、目を丸くさせた。
「…そうなんだ」
「だから、もしもお前がもう1年やるとか言い出したら、正直ヤバかったかも」
苦笑しながら返すユーリは、バルコニーの欄干に身を預ける。
「まさか、カツ丼がここまでしぶとく現役続けるとは思わなかったからな。予定ではさっさと引退したお前の後、俺がタイトル全部取ってた筈なのに」
「昔、誰かさんにやめちまえバーカって罵られたから、意地になっちゃったのかもね」
「…忘れてくれよ」
「忘れないよ。僕がここまでやれたのは、君のお蔭でもあるから」
笑う勇利に、ユーリは薄っすらと頬を染めた。
「お大事にね。僕は引退するけど、油断しちゃダメだよ?」
「しねーよ。現に今、すぐ近くにおっかねぇのがいるからな」
言いながらユーリが向き直った先には、こちらを見守るパートナー達の姿があった。

勇利の引退から間もなく、ユーリは長年の競技生活から疲弊していた足首の療養の為、来季の休養を発表した。
そのシーズンは礼之がほぼ独走体制だったが、更にその翌年には復帰したユーリが初戦のGPS日本大会を見事優勝、再び新世代の戦いが幕を開けたのである。
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