第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『サムライの枕』
アイスショー終了後の打ち上げの席で、早々に礼之は撃沈していた。
「ありゃ、やっぱり今回もか」
ソファの片隅で身を丸めている礼之と、テーブルにあった空のワイングラスを認めた南は、苦笑しながら自分のパーカーをかけてやる。
飲酒可能な年齢にはなったが、スオミの酒の強さは遺伝しなかった礼之は、2杯目以降はたちまち眠気に襲われてしまうのである。
「礼之くん、寝てしもうたん?無理に飲まんでもええのに」
「アレクくん、お酒の雰囲気は大好きやそうです。逆においは、全然酔わん体質みたいで」
「健坊は、あのデコともタメ張れる肝臓の持ち主やもんなあ」
「でも、おいはあんまりお酒の美味しさは判らんから、ノンアルでよかです」
寝息を立て続ける礼之の様子に、隣に腰掛けた南と純が微笑ましく見守っていると、何処からか新たな人影が、大股気味にこちらに近付いて来た。
「ったく、懲りずに何してやがる」
若干割り込むように礼之と南の間に腰を下ろしたユーリは、呆れるような眼差しを礼之へ向ける。
「ミナミもあんま甘やかすな。お前が優しくし過ぎるからコイツが付け上がるんだぞ」
「ユリオくん、アレクくんは少しでも慣れて、ユリオくんとお酒の付き合いもしたいて…」
「…俺からすりゃロシアの飲兵衛共の数百倍、飲めねぇ奴の方が信用できる」
南のフォローを一蹴すると、ユーリはすっかり眠りの世界にいる礼之の頭を自分の膝に載せると、持っていた水のボトルを開けた。
そのまま礼之の口元に持っていこうとしたが、不意に動きを止めると、上目遣いで純を見る。
「礼之くん、お水飲み」
「んー…」
ユーリの意図に気づいた純の囁きに反応した礼之は、半ば寝惚けながらもゆっくりとボトルに口をつけると、先程よりも安らいだ表情で、ユーリの膝枕に頭を載せ直した。
「…枕の語源は、魂蔵から来てるらしいで」
「なるほど、そんならユリオくんの膝枕が、アレクくんにベストマッチやね」
「え?あ、おい!」
「ぅふふ…ユリぃ~…」
背を向けて去っていく2人の言葉と、心底気持ち良さそうに寝言を呟く恋人の温もりに、ユーリは顔を赤らめたまま、しかし彼が目覚めるまでそのままでいた。