第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『いつだって、以心伝心』
『ビン底眼鏡』をかけた学生姿の礼之が、JKの仮装をした南に白い封筒を渡す。
封筒の中身を確認した南は、少し照れたように両手で顔を覆った後で小さく頷き、それを見て大喜びした礼之と手を取り合うと、仲良くリンクの中央で滑り始めた。
「南くん?」
「これは恥ずかしい所を見られたとです…」
とある民放主催のアイスショーに出演した勇利達は、共演の女子スケーター達と一緒にJKに扮した南を発見した。
何でも、もうすぐ始まるドラマの番宣も兼ねて、主催側から出演者達にそのコスプレを依頼されたのだが、何故かこういう時は必ず「イロモノ担当」というのも設けられており、今回南に「面白い事やってよ」とその役が回ってきたのだ。
「今年もやっとんのか。僕らの頃もなかった訳やないけど」
主催側の立場は知りつつも、プロではなく現役のスケーターにこうした余興をさせる事をあまり良く思っていない純は、腕を組みながらため息を零す。
「でも、コレでお客さんが楽しんでくれるなら、南健次郎一肌でも二肌でも脱ぐとです!」
そんな純の気遣いを知ってか知らずか、南は髪に付けられたリボンを触った後で、握りこぶしと笑顔を作った。
その後、スタッフに呼ばれて黒いショートパンツを履いているとはいえ、ミニスカートの裾を恥ずかしそうに押さえながら移動する南の後ろ姿を確認した礼之は、純達に事情を聞くと、「面白い事をやればいいんですね」と青い瞳を細めた。
「僕は、南さんの小道具です。EXに小道具はつきものです」
半ば勢いでスタッフを納得させた礼之は、上半身を私服の白いポロシャツに着替え小道具の眼鏡をかけると、女子スケーター達が去ったリンクで孤軍奮闘する南の傍に近づいた。
「アレクくん?」
目配せをしてきた礼之に封筒を渡された南は、入っていた手紙を読むと、芝居ではない笑顔を彼に向ける。
『読んだ後で、OKの仕草をして下さい。南さん、いつも有難う。これからも一緒に、スケートの色々な事を分かち合っていきましょうね。礼之』
「…ほんに有難うな!」
「いつも僕が南さんに助けて貰ってるもの!だから、これはただのお返しです!」
即席とは思えぬ程息の合った2人の滑りに、観客からの声援は更に大きさを増していった。