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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『やったろうじゃ(や)ないか』


「ゆ、ゆうり、待って、ストップ」
オフシーズンのアイスショーでペアプログラムを滑る事になった純と勇利は、ヴィクトルの現役引退後再び勇利の拠点となった長谷津のリンクで練習を繰り返していたが、2人で同時にステップを刻む途中、勇利のスピードについていけなくなった純から「待った」がかかった。
「アカン、僕もステップは不得意な訳やないけど…現世界チャンプのレベルに合わせるのはハードモード過ぎや」
「でも、この2人同時のステップはプログラムの山場だから、あんまりスピード落とすのは得策じゃないと思う」
動きを止めた勇利は、自分の背後で荒い呼吸を繰り返している純に返事をした。
「無茶言うてくれるなあ。まだまだ現役の勇利と、既に引退済みの僕を比べんといて…」
「それに。絶対に無理な事ならともかく、僕は昔から純が難解な課題ほど燃えるのを知ってる」
「…気持ち程度だけ、ステップの速度落としてくれ。それで何とか食らいついてみせるわ」
リンクサイドのボトルで喉を潤すと、純は先程よりも真剣な顔つきになった。

「勇利、これは競技やのうてショーのプロやから。も少しだけスプレッドイーグルの時のエッジを深く出来ひん?あと、ランジからジャンプへの繋ぎも丁寧に」
「もっと?」
「うん、もっと」
「無茶言わないでよ。これ以上ディープエッジにしたら、曲のテンポとズレちゃう」
「そんなんでスピード落ちるようなお粗末なイーグルを、勝生勇利がする筈ないの、僕知ってんねんけど」
「…純が教えてくれるなら。イーグルは純の方が上手でしょ」
「拗ねんといて。僕は、勇利よりもちょっとだけショーでの見せ方を知っとるだけや」
少しだけムッとした表情をする勇利に、純は苦笑しながら頷く。
そんな2人の様子を、ヴィクトルや西郡にスマホを構える娘達を制止する優子は、微笑ましく見守っていた。

その年の夏に行われたアイスショーで、制服姿の高校生に扮した2人のペアプログラムは、ダントツの人気だったという。
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