第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『サムライの主張』
公式練習の最中、背中合わせの形で接触した礼之とユーリは大きく体勢を崩した。
後ろ受け身の要領で先にリンクに手を着いた礼之は、そのまま半身を動かすとユーリの身体を受け止める。
「礼之、大丈夫か!?」
「ユリ、平気!?」
周囲の心配を他所に、2人は互いの名を呼び合う。
礼之の真摯な眼差しと、自分の身体を支える彼の見かけよりも逞しい腕を意識すると、ユーリは照れ隠しに横を向くと「悪ぃ」と立ち上がり、礼之の手を引こうとしたが、
「ユリは先行ってて」
「どうした?まさか…」
「いや、ホント全然問題ないから!」
怪訝そうに尋ねてくるユーリに激しく首を振ると、礼之もやがて体勢を起こしてリンク際へと去っていく。
その時、礼之の身体が心なしか前屈みになっているのに気付いたユーリは、怪我を懸念するヤコフの言葉もそこそこに彼の後を追いかけた。
「待てよ」
背後からの声に、通路を歩いていた礼之はビクリと足を止める。
「…何?」
「お前、ホントはどっか痛めたんじゃねぇのか?」
「え、違うよ」
「じゃあ、何でこっち見ねぇんだよ」
続けられた質問に、礼之は益々困った顔になる。
「俺は、俺のせいでお前が怪我したなんて、ぜってー嫌だからな」
「僕、嘘吐いてない!この程度なら少し冷やせば大丈夫だってば!」
「ンな前屈みで歩いてんの見せられて、納得できる訳ねぇだろ!」
上背はユーリの方があるので、礼之は半ば強引に壁際に追い詰められると、怒りと何処か悲しみを帯びた緑の瞳に凄まれた。
そんなユーリを目の当たりにして、礼之は頬を紅潮させながら口の中でモゴモゴ呟いていたが、
「…本当に言っていいの?」
「だから、さっきからそう言ってるだろ!」
「じゃあ…」
礼之から耳元で囁かれた直後、瞬時に顔を赤くさせたユーリから「馬鹿野郎、このどエロ侍!」という怒号が放たれた。
「超久々に会う恋人の、フィギュアで鍛えられた太腿とお尻が自分の上に乗っかってきて反応しないなんて、よっぽどの枯男か賢者ですよ!ユリは男心がまるで判ってない!」
「…その話、長くなるか?」
抓られた頬を冷やしながら愚痴を零す礼之に、オタベックは生温かい眼差しを向けていた。