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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『僕らしく』


『青い瞳のサムライボーイ』伊原礼之は、アジア圏で開催された大会で、ジュニアトップの呼び名も高い中国のジ・グァンホンと、ある余興をする事になった。
それは互いの名を墨で書くというもので、日本の祖父から書道を習っていた礼之は、自身の外見によるコンプレックスを払拭させる意味も込めて、いつもより丁寧にグァンホンの名を書いたのだが。
対するグァンホンから返された紙には、見事な筆遣いで礼之の名が記されていた。
決して達筆ではないものの、まるで彼のスケーティングのように滑らかで迷いのない文字に、形だけそれらしさを保っている自分のそれに、途端に情けなくなってくる。
その時、
「うわ、上手っ!いかにも日本人って感じの文字だよね!」
スタッフから紙を受け取ったグァンホンが、心底感心したような声を上げた。
「そのルックスで達筆って、反則もいいとこじゃん!」
「僕のはただ基本をなぞってるだけで、ジさんのような筆遣いは出来ないし…」
「グァンホンでいいって。スケートだって、最初は基本からでしょ?礼之は僕より年下なんだから、これからいっぱい頑張れば良いんだよ」
そばかす混じりの笑顔を向けてきたグァンホンに、礼之は自分の中で芽生えたある想いを確信していた。

シニアに上がった礼之は、再び国際大会でグァンホンとも競い合うようになった。
「礼之、久しぶり!ちょっと会わない間に色々属性つけてきて、更に反則さ増してない?僕より先に芸能界デビューしちゃダメだからね♪」
「リンクの上ではフェアで行きますから」
様々な出会いや試合を経て心身共に大きくなった礼之を、グァンホンは何処か嬉しそうに見つめる。
「あ、そうだ。この間のお正月に書き初めしたんですけど、ふとあの時の事を思い出して、久々にグァンホンさんのお名前も書いてみたんです」
スマホのフォルダを開いた礼之は、そこから1つの画像を呼び出すと、グァンホンに見せる。
「どうでしょうか?先生」
「…うん。とっても礼之らしくて良いと思う」

スケート同様、あの時よりも成長した『青い瞳のサムライ』の筆遣いに、グァンホンは口元を綻ばせた。
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