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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『サムライと、2人のユーリ』


初のGPF出場を決めた礼之は、逸る心を抑えながら滑走順を決める抽選会場の椅子に腰掛けていた。
ギリギリとは言えファイナリストに入れた事を嬉しく思う一方、優勝をかけて争う他の選手達の錚々たる顔ぶれに、目が眩みそうになる。
(僕は挑戦者の立場だ。臆する必要はない。いつも通りに…)
胸に手を当てながら心中で呟いていた礼之は、自分の名前が呼ばれているのに気付かなかった。
すると、
「礼之くん、どうしたの?」
「おい礼之、お前呼ばれてんぞ!」
礼之の両隣に坐っていた勇利とユーリが、ほぼ同時に声を掛けてきたのだ。
『漆黒の怪物』の大先輩と、愛しい恋人でもある『ロシアの貴公子』の呼びかけに、礼之は我に返る。
「え…?はっ!す、すみません!」
礼之は慌てて立ち上がると、苦笑している係員に赤面しながらくじを引く。
「大丈夫?」
「ったく、何やってんだよ」
「…少し緊張してたみたいです」
「こんなの試合に比べりゃ、へでもねぇだろうが」
「でも、今の内に緊張しといたら、本番で良い演技ができると思うよ」
くじを引き終え再び椅子に腰掛けた礼之は、2人に照れ笑いを返す。
ベテランの勇利と、1つしか変わらないのに成長期の壁を乗り越え、再びトップ争いをするユーリの頼もしさに比べて自分は何て様だ、とほんの少しだけ情けなくなってきた。
そんな礼之の様子を、『2人のユーリ』は、さり気なく窺っていた。
(僕が礼之くん位の頃は、まだジュニアで必死だった…君は頼もしい僕の日本の後輩で、ライバルの1人なんだよ)
(GPFに来たお前は、優勝できる資格を持ってんだ。俺のこ、恋…ならもっとシャキッとしやがれ!)
そんな想いを胸に、2人は偶然にも全く同じタイミングで礼之の背を叩く。
「ん?」
「え」
背中の温かい2つの感触と、互いの顔を見合わせている『2人のユーリ』に、礼之は今度こそ無防備な笑い声を上げた。
「ユリオも同じ事考えてたんだ」
「ばっ、ちげーし!」
「あはは!有難うございます勝生さん。ユ…プリセツキーさんも」
「…んだよ。いつもみたいに呼べばいいだろ」
「え、でも」
「緊張は解けたみたいだね」
見つめ合う若い恋人達を、勇利は微笑ましく眺めた。
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