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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『ファインダー越しの貴方と俺』


「随分とめかしこんでいるのだな」
大学の構内で、普段とは違いこましな格好をしている守道を見つけたオタベックは、声をかける。
「ああ、これからちょっと撮影があってね。変じゃないかな?」
「…別に」
何処か改まった場所でカメラを使うのだろうかと考えたオタベックは、滅多に見られない恋人の装いに密かに胸を踊らせながらも、表面上は平然と見送った。

数ヶ月後。
いつものようにオフの前日に守道の部屋に泊まったオタベックは、ソファで彼が読んでいる雑誌を覗き込むと、驚愕した。
「何なのだこれは?」
「え、俺言わなかったっけ?」
曰く、守道の卒業した大学から『世界へ羽ばたく卒業生達』というテーマで機関誌への掲載依頼があったらしく、わざわざ日本から守道を取材に来ていたというのだ。
「てっきり、貴方が撮影する側だと思ってたから…」
「俺、あの日カメラ持ってなかったでしょ」
「判ってれば、俺がもっとちゃんと貴方をコーディネートしたのに!」
「たかが学校の機関誌じゃないか。普段君が国内外で掲載されてるものとは大違いだって」
守道から半ば奪い取るように、オタベックは雑誌に目を通し始めた。
日本語は読めないが、在学中の守道を撮ったスナップ写真の中に、純とのツーショットを見つけると、無意識に眉根を寄せる。
「研究論文その他は大学に残してきたけど、俺も純先輩も途中でゼミを抜けちゃったからね。大学や教授にしてみたら、これ位の義理は果たせって事なんだろうな」
「…こんなありきたりな構図、全然貴方の良さが出せてない」
苦笑する守道の耳に、地を這うようなオタベックの声が届く。
「おい、相手もプロのカメラマンだぞ?」
「だって、俺の方がもっと上手に貴方を撮る事が出来る!」
「は?」

「…そろそろ気は済んだ?」
「まだだ!」
翌日。
わざわざ愛用のカメラを取りに一度自宅に戻ったオタベックは、その後守道のクローゼットから衣服を見繕うと、彼の超単独撮影会を始めたのだ。
恋人の子供っぽい我儘と、多少の気恥ずかしさに表情を緩めている守道に、カメラを構えるオタベックの頬も、誤魔化しようのない朱に染まっていた。
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