第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『若き2人の為の、サクリファイス』
バンケット会場を抜け出した夜のガーデンで、礼之とユーリが少しだけ濃密な時間を過ごしていた頃。
「…コイツほど、俺をぞんざいに扱う人間はいないよね」
「でも、純がここまで無防備な姿見せてるのって、ヴィクトルの事信頼してるからだと思う」
「まあ、確かにコイツとは初めて会った日の夜に、勇利の実家の露天風呂で取っ組み合いした仲だけどね」
徹夜で礼之のEX作りに付き合っていた純は、関係者への挨拶を終えた直後、とうとう力尽きてしまった。
礼之の事でユーリをからかおうとしていたヴィクトルを、文字通り身体を張って止めるかの如く、彼の膝の上で爆睡し続けているのだ。
「多分、僕よりもヴィクトルに対しての方が、純は素の自分を見せてるんじゃない?でも…ちょっと面白くない」
「勇利も言うようになったね。じゃあ、このねぼすけに仕返ししちゃおうか♪」
「どうやって?」
純を膝に乗せたまま、器用にポケットからスマホを取り出したヴィクトルは、勇利に差し出しながら写真を撮るように言う。
ヴィクトルの何か企んでいるような表情と、彼の膝枕で眠り続ける純を見比べた勇利は、ヴィクトルの言う通りにした後で、自分のスマホでも別アングルから撮影すると、久々にSNSを起動させた。
バンケット会場に戻ってきた礼之とユーリは、入口の手前で互いの繋いでいた手を離すと、足を踏み入れたと同時に珍しい人物の怒声を耳にした。
「肖像権の侵害やろ!勇利まで一緒になって何しとんねん!」
「寝汚い姿晒し続けてたお前が悪い」
「ヴィクトルの膝は、僕の指定席だから。膝枕なら僕がしたのに」
「ダメ、勇利の膝は俺のもの!」
「やかましいわ、このバカップル師弟が!」
「どうしたんだろう?純さんがあんなに怒るなんて…」
「サユリ、お前マジで身体張り過ぎだ…」
スマホでヴィクトルと久々に更新された勇利のSNSを確認したユーリは、そこに上がった膝枕の画像とコメントを見て微妙な顔で呟いた。
『世界一、俺の膝枕の価値を理解しない男』
『僕のコーチと振付師。Don't disturb☆』