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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第1章 僕と勇利、時々『デコ』


『泡夜の宴・2』


「あ、あっちにピアノあると♪なあ純、何か弾いてさ~純~」
酒の匂いと無遠慮に頭を擦り付けてきた勇利に、純は辟易した表情になった。
「勇利に抱き寄せられて喜んでるんじゃないよ!」
「どこがや!こちとら冗談抜きに重いねん!勇利もええ加減にしい!」
「純が弾く、言うてくれるまでどかん~」
バンケットルームの一角に鎮座する木目調のグランドピアノと、眼前の酔っぱらい共を交互に見た純は、ぷつん、と自分の中で何かが切れるのを覚えた。
己の胸元にあった勇利の頭を持ち上げると、唇が触れる寸前まで顔を近付け、ちゅ、と唇を鳴らす。
角度によってはまるで純が勇利にキスをしたようにも見え、色々な意味で周囲がざわつき始めたが、意に介さぬといった風に立ち上がった純は、優雅に歩を進めると、シャンパンクーラーの中に入っていたボトルを手に取り、ラベルを一瞥した後で3分の1程残っていたそれをひと息に飲み干した。
「サユリ!?」
突然の事にユーリが驚くのを他所に、純は口から炭酸のガスが漏れ出そうになるのをハンカチを当てて誤魔化すと、空になったボトルを傍らのテーブルの上に音を立てて置いた後で、ピアノの前に腰掛ける。
少しだけ手指や肩を鳴らした後で鍵盤をポーンと鳴らすと、何処か悪童のような笑みで勇利とヴィクトルを見る。
「2人共踊り。音楽にはダンスがつきものや」
否や、弦のピチカートのようなリズムの後で軽快なアレグロのメロディを奏で始めた。
「シャブリエのスペイン狂詩曲…なるほどね」
先程純の飲み干した『シャブリ』のボトルを見たヴィクトルは、ニヤリと笑うと彼の奏でる旋律に聴き入っている勇利を立ち上がらせると、3拍子のリズムに合わせて踊り始めた。
「俺も一緒に弾いていい?」
「勿論。2手やとキツイ曲やし助かるわ、クリストフ…ぅわっ!?」
「そろそろクリス、って呼んでよ」
純の尻を軽く撫ぜると、ピアノの長椅子の左側に坐ったクリスは一緒に鍵盤を叩く。
「素敵!ねぇ、私達も踊りましょう!」
「おい、やめろよ!」
いつしかミラに巻き込まれるような形で、ユーリも踊りの輪の中に加わる。
まるでシャンパンの泡のように、誰もが弾けつつ一夜限りの宴を満喫していた。
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