第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『オトナのリンク裏』
「はーい、それじゃあみんな勇利くんの後に続いて滑ってってなー」
オフシーズンに国内のスケート教室に招かれた勇利と純は、子供達を相手に特別コーチをしていた。
現役引退後、藤枝のアシスタントとして時折子供も指導している純は勿論の事、勇利もぎこちないながらも未来のスケーター達の為にと奮闘していた。
「あれ、何かみんな足元しか見てへんのと違う?視線がこ~んなんなっとるで。ちゃんと前向いて滑らんと」
とはいうものの、参加者の殆どがヘルメットにプロテクターを付けたスケート初心者なので、中々容易にはいかないようである。
そんな子供達の様子に、純は暫し何か考えた後で勇利に目で合図を送り、勇利も純の意図を理解したのか、それまで子供達に背を向けていた状態から180度向きを変えた。
「みんな、僕の顔が見えるかな?」
「みえるー!勇利くん!」
「前で勇利くんが手ぇ振っとるで。今度は下向かんと、勇利くんのお顔を見ながら滑っていこうな」
「純くんもみんなの後について来てるから、安心してね」
後ろ向きに滑りながら手を振る勇利に、子供達は先程よりも目線を上げると、嬉しそうに歩を進めていた。
「お疲れさん。慣れへんのに、よう頑張ったなあ」
「ちょっと緊張したけど、僕眼鏡かけてなかったから、実は殆ど子供達の顔判んなかったんだよね」
「…それ、あのコらの前で絶対言うたらアカンからな」
【余談】
「何で勇利と一緒に俺も参加しちゃダメなの?『正妻』差し置いて『愛人』がでしゃばるって、どういう事?」
「アンタが来るとリンクが大混乱になるのと、ギャラが半端なくなるからや。個人的には選手達の広告費で(rやっとるどっかの誰かさんらから金巻き上げるんは、ウェルカムやけどな」
「純もそれ言っちゃダメ、ゼッタイ!ヴィクトルは、今度長谷津のリンクで僕と一緒にやろう?」