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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『愛人の本気』


宴もたけなわという頃。
パーティー会場のロータリーに、一台の高級車が乗り付けてきた。
運転席のドアが開くと、中から光沢のストライプをあしらった黒のドレスシャツとボトムに身を包んだ1人の青年が現れる。
周囲が突然の来訪者に注目する中、優雅な手付きでサングラスを外したその青年は、そこから覗いた漆黒の瞳で1人の男の姿を捉えると、妖艶ともいえる笑みを浮かべた。

「絶対ニェット!何で僕が!?」
「その日は俺、どうしても外せない仕事があるんだよ。どうせお前、夜は暇なんだろ?」
ロシアに訪れていた純は、ある日ヴィクトルからとんでもない依頼をされた。
何でもとあるスポンサー絡みのレセプション会場まで、勇利を迎えに行って欲しいというのだ。
「後援者の1つの女オーナーが勇利を気に入ったみたいでさ、この頃やたらと絡んでくるんだ。勇利も塩対応でかわしてるけど、俺がいないとどんな強引な手を使って来るか判ったもんじゃない」
「単に迎えに行くだけでええやんか!そこまでする必要ホンマにあるんか!?」
「その会食なら俺も招待されてるし、俺がカツ丼連れて帰ってやろうか?」
「あの女狐ユリオの事知ってるし、何より俺が気に食わないから却下」
「何だよそれ」
「その点お前なら面は割れてないし、衣装その他必要なものは俺が出してやるからさ。…これは勇利の為なんだぞ?」
口をハート型にして笑うヴィクトルの言葉に、純は歯を食いしばった。

勇利に絡む女性を曰くありげな視線で制した純は、差し出された勇利の腕を取ると、再び車へと戻る。
助手席に勇利と、いつの間にかついてきたユーリが後部座席に乗るのを確認すると、荒々しくエンジンをスタートさせ会場を後にした瞬間、魂の叫び声を上げた。
「…これで僕はロシアでもめでたく愛人デビューか!?自分のアホさ加減にホンマに腹が立つ!」
「だ、大丈夫だよ。きっと周りも、謎の東洋人のイケメン来た!って思っただけだろうし」
「…カツ丼。お前もうちょっとサユリのファイトぶり労ってやれよ」
「そ、そうだった!有難う純」
「うぅ…勇利の為やなかったら誰がこんな真似…!」

パーティー会場に飛び交う謎の美青年の噂も何処へやら、泣き喚きながら車を爆走させる純を、2人のユーリは懸命に慰めていた。
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