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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『1人を救うものは』


地に落ちた指輪を拾い上げた男は、後悔の念と共にそれを握りしめた。

ギオルギー・ポポーヴィッチ現役最後のプログラム『シンドラーのリスト』は、過去に何人ものスケーター達が演じてきた名作に勝るとも劣らぬ魅力と迫力で、観客を圧倒した。
「後悔」にテーマを置いたそのプロを手掛けたのは、ギオルギー自ら指名した純で、完成に至るまで互いに何度も話し合いながら、時にはぶつかり、また時には3時間超もの本編を見て滂沱の涙に暮れつつ、作り上げていったのだ。
プログラムの冒頭も、作中のラストシーンから取り入れた振付で、「ホンマに指輪落としたと思われて、減点食らったりしいひんかな?」という純の懸念に、ギオルギーは「だとしたら、それだけ俺の演技が本格的って事さ」と笑った。

競技生活最後の大会を、圧巻の演技で締めくくったギオルギーは、試合に招待していた純を呼び寄せると、彼をきつく抱き締めた。
「感謝する。お前のお蔭で俺は、本当に充実したラストシーズンを送る事が出来た。勿論、後悔は全くないと言ったら嘘になるがな…もっと、やれた事があったかも知れない…」
「これまで僕は、競技プロの評価はイマイチやったけど、君のお蔭で自信を取り戻せた。君が僕を救ってくれたんや。ホンマに有難う…でも、ごめんな。最後の方は中々見る事できひんで。もっと時間作って君に会いに行けば良かった…」
「そんな事はない。お前は、このギオルギー・ポポーヴィッチという1人のスケーターと人間を救ってくれたんだ」
互いに頬を涙で濡らせながら何度も謝罪と礼を繰り返した後、純はギオルギーに尋ねた。
「今後はどうするつもりなん?ヤコフセンセからコーチの道も勧められとるって聞いたけど」
「それなんだが、実は以前から別の誘いが…俺に務まるかな?」
「…素敵な話やんか!君やったらきっと大丈夫や!」
耳打ちしてきたギオルギーの言葉に、純は目を輝かせた。

引退後、ミュージカル俳優に転身したギオルギーは、持ち前の表現力とスケーター時代には披露する事のなかった抜群の歌唱力で、早くも固定のファンを掴みつつあった。
「ブロードウェイは目の前やな?」と笑う純に、ギオルギーは「その時には、真っ先にプレミアムシートに招待するよ」と真剣な表情で返した。
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