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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『衝撃な喜劇』


「コラーっ!待たんかい、このデコ!」
「そんな事でいちいちつっかかってくるのは、お前くらいだよ!」
リンクで年甲斐もない追いかけっこをする純とヴィクトルの姿を、周囲は呆然と見送る。
トップ選手達が使用するメインリンクを、所狭しと縦横無尽に滑り続ける純達に注がれた視線は、はっきりと2種類に分かれていた。
1つは、おもにジュニア選手や一線ではないシニア選手、若手コーチに多い「いい年をした大人が何をやっているんだ」という生温かなもの。
そして、もう1つは。
「──流石にお前達は、気づいておるようだな」
ユーリやギオルギー、ミラをはじめ世界レベルの戦いをする選手達の真剣な眼差しに、ヤコフは当然だと言わんばかりに頷く。
昼休みで人がまばらとはいえ、リンクにいる他の選手やスタッフの間を器用にすり抜けながら滑り続ける2人の凄さを、ユーリ達は理解していたからだ。
現役を引退してもなお「リビングレジェンド」として君臨するヴィクトルのスケーティングもさる事ながら、競技者としては大成しなかったものの、そんなヴィクトルにも引けを取らない純の繊細なエッジ捌きに、一同は目を奪われていたのだ。
「とはいえ、あの2人が醜い争いを続けている事には違いないわね」
「確かに。いい加減止めんと、他の奴らにも示しがつかん」
至極冷静なリリアの言葉に、ヤコフが重い腰を上げようとした時、一足先に休憩に出ていた勇利が戻ってきた。
「ヴィクトル、さっき言ってたSPの事だけど」
「勇利!…っ、しまった!」
「つ・か・ま・え・た♪超局地的数カ所痛点コースと、やんわりと全身くまなくフルコース、どっちがええ?」
「どっちもニェットー!痛たた!」
公私共にパートナーである勇利の呼びかけに、つい動きを止めてしまったヴィクトルは、口元は綻んでいるが目は決して笑っていない純に拘束されると、自分の腕に食い込んだ親指の圧力に悲鳴を上げた。
「…後は、彼に任せておけば良いのではなくて?」
「だな。あいつらはカツ丼の『正妻』と『愛人』だし」

リリアとユーリの言葉に、ヤコフは息を一つ吐くと、事態の収拾を『怪物』に委ねる事にした。
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