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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『言の葉の想い』


日露学生交流会の一環として日本語による弁論大会が、守道の通う大学で開催された。
「…やっぱ無理。俺、帰る」
「何言ってるの」
「だって、他の奴ら皆バリバリに日本語勉強して喋れるのばっかじゃねぇかよ!そんな中、俺が出たら絶対恥かく!」
特別に参加者として招かれたユーリが慣れないスーツ姿で喚く姿を見て、守道は笑った。
「そりゃ、君と彼らとじゃ経験が違うからね。でも、君だっていい加減な気持ちで日本語を勉強してきた訳じゃないだろ?それとも君は、スケートの大会やショーに来た格下や年下の選手を見て馬鹿にするの?」
「…そんな事しねぇよ」
「変にカッコつける必要はない。今できる精一杯の事をやればいいんだ。君が日本語を習いたいという気持ちが本物なのは、俺も、そして純先輩も知ってる」
はじめは純に日本語を教えて欲しいと頼んだユーリだったが、様々な理由から断られた後、純の後輩である守道を紹介されたのだ。
「相手の事を知るのにその国の言語を学ぶのは、一番手っ取り早い方法だ。そうする事で、己を俯瞰から見る事も出来る。外交の基本でもあるな」
「外交?」
「…とにかく、今日を迎えるにあたって一緒に頑張ってきたじゃないか。昨日も俺と練習しただろ?せめてそれを無駄にはしないでくれよ」
「センセー…」
確かに自分に付き合ってくれた守道の事を思うと、ユーリは歯を食い縛る。
やがて、出番になり壇上に上がったユーリは、守道が添削清書してくれたロシア語のアンチョコ混じりの原稿を開くと、彼に教わった通りいつもよりゆっくりと口を開く。
「…『僕ガ、日本語を、勉強シタイと思ったのハ、スケートを通ジテモット、日本の事ヲ、知りたくナッタからデス。僕ハ…」
日本語での一人称を『僕』にした切っ掛けでもある、1人の日本人スケーターの事を脳裏に浮かべながら、ユーリは辿々しくではあるが、自分の想いを語り続けた。

「素晴らしい手腕だわ。やはり、お父様の影響かしら」
「いいえ、ユリオくん本人の努力ですよ」
未熟ながらも初めての日本語スピーチをやり遂げたユーリを見て、ほんの僅かに口元を綻ばせたリリアに、守道は努めてぶっきらぼうに返した。
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