第2章 その笑顔を見れただけで、なんか不思議と嬉しくなる
浅倉が取材に来てから数日、体育館に浅倉が居るということには初日と比べれば幾分慣れてきたが、あくまで、そこに居るということに慣れただけであって、声を掛けられれば緊張するし、目なんか見れたもんじゃない。
今回インターハイで準々決勝敗退となったが、その功績を評価され、密着取材という形で校内で新聞部に取り上げられることになったのだ。浅倉も部活の一環でここに来てるわけであって、それに協力しない限りは、浅倉がここに居ることは意味を成さない。今回の取材は、バスケ部…とは言ったものの、キャプテンである俺をメインにと言ったわけだから、女子が苦手だとか理由をつければ、浅倉も困る。先日の件もあるし、ここはしっかりと、受け答えしねえと…!そう思い、浅倉を見れば、目が合った。慌てて視線を逸らした。
「やっぱり髪短くしてもダメですね。」
溜息まじりのその言葉に良心が傷んだ。
「悪かったな…髪、切らせて。」
そう言うと、目を丸くする浅倉。その後、少しだけ表情を緩めた。
「…なんだよ。別に可笑しいことは言ってねえだろ?」
「初めて、笠松先輩から話し掛けてくれたなって思って。」
そう言って笑う浅倉を見て、顔に熱が集まった。その笑った顔を直視出来ず、顔を背けた。
「あれ!?珍しい!浅倉っちが笑ってる!浅倉っち!もっかい今の俺にも!」
「…涼太、五月蝿い。」
「黄瀬うるせーぞ!休憩終わりだ!戻んぞ!」
「ちょっと笠松先輩!押さないで下さいよ!」
未だに妙にドキドキするのは、やはり女子が苦手で、笑いかけられることなんて滅多にないから、緊張しただけだ。その筈なのに、その笑顔を見れただけで、なんか不思議と嬉しいと感じちまった。