第2章 その笑顔を見れただけで、なんか不思議と嬉しくなる
「やっぱり女子がいるとモチベーション上がるな。」
コートの隅にいる浅倉を見ながらぽつりと森山がそう呟いた。
先日、男子バスケ部の密着取材をするべく、挨拶に訪れた浅倉。俺の不用意な言葉のせいで長かった髪を切らせる羽目になった。不揃いに短く切られた髪は、黄瀬が美容室に連れて行ってくれたお陰で、綺麗に切りそろえられたが、浅倉を見る度に申し訳無いことをしたと自責の念にかられる。
「五分間休憩!」
その言葉を合図に、部員達が一同にスクイズを取りにコートから出た。
「お疲れ様です。」
「…ああ。」
俺のスクイズを持った浅倉はそれを俺に渡した。そのスクイズを持った手に触れないように、また、目線を合わせないようにスクイズを受け取った。
「ちょっと浅倉っち!なんで笠松先輩だけ手渡しなんスか!?」
「そうだぞ笠松。お前だけ特別扱いなんて許さん。」
「あのな、浅倉はマネージャーじゃねえんだぞ!自分の世話は自分でやれ!」
「別にいいですよ。」
犬のように吠える二人に順番にスクイズを渡し、それを笑顔で受け取る二人。やっぱり女子から渡されると格別美味く感じるな、なんて森山は言っていたが、浅倉から渡されたからと言ってスクイズの中身に変化がある訳無い。いつのスポドリだ。