第1章 海常高校男子バスケットボール部密着取材
その黄瀬の言葉に何か考えた様子の浅倉は、何か思いついたように鞄の中から筆箱を取り出し、その中からハサミを取り出した。そして、浅倉は自身の長い髪を左手で持つと、ハサミを持った方の手で、その掴んだ髪を切り落とした。
「何やってんだ!?」
「浅倉っち!?何やってんスか!?」
驚き、そう声を掛けた時には既に長かった髪は地面へと落下。
「取材出来ないと困るし。これだけ短ければ、少しはマシでしょ?どうですか笠松先輩?」
髪は女の命。女子が苦手でも、そんくらいは知っている。
それなのに、浅倉は躊躇いも無く切った。女子が苦手である俺に自分が女である事を少しでも意識させないように。
「そんな文房具のハサミで髪切ったら髪がダメになるじゃないっスか!美容室…いや、スタイリストさんに頼むから、今から事務所…!急ぐっスよ!笠松先輩!俺、ちょっと部活抜けるっス!」
「あ…嗚呼。」
「いいよ別に。」
「浅倉っちが良くても俺が良くないんス!ああ…折角の綺麗な髪が…。」
黄瀬は名残惜しそうに地面に散らばった髪を見つめたが、当の本人は全く気にしてないようだった。そんな浅倉の手を無理矢理引いて正門の方へ走って行った黄瀬の背中を唖然としながらただ見詰める事しか出来なかった俺。
「…どう考えても、俺のせいだよな。」
俺が女が苦手なんて言わなきゃ、浅倉も髪をその場で切るなんて行動に出なかったろうに。いや、だからと言って、普通その場で髪を切るなんて思わねえし。
つーか、黄瀬の奴、しれっと練習抜けてんじゃねえかよ。帰って来たらシバく。