第13章 チョコレート少女
「あんたに何かあると、社の看板に傷がつくの」
それに、と続けながら、詞織さんは指に歯を立てる。
「『良い人間』なら、あんたみたいなどうしようもないヤツも助けるからね」
異能力――『血染櫻』
シュルシュルッと詞織さんの紅い血液が伸びる。
「な、これは……」
「血、か……?」
「これが、詞織さんの異能……」
初めて見る異能力に、吾妻さんと錦戸さんは息を呑んだ。
僕も二人と同じ様に息を詰める。
詞織さんから伸びる紅い血液が爆弾を包んだ。
元議員が保っていた状態を維持したまま、彼の手から離れる。
「詞織さん、何を……?」
「少し静かにしてくれる?」
詞織さんはゆっくりと紅い瞳を閉じた。
――ガシャンッ!
爆弾を包んだ血液が窓から新幹線の窓を割って外へ出る。
割れた窓ガラスから吹き込む強い風に、僕らは顔を覆った。
その隙間から詞織さんを覗き見ると、白い瞼を閉じた彼女は「大丈夫そう」と呟く。
やがて――……。
――バァアァァンッッ‼
新幹線の上空で何かが破裂した。
それが何かなど、考えるまでもない。
さっきの爆弾だ。
「詞織さん、今の音……」
「爆発させたの。あのままずっと持ち歩くわけにはいかないでしょ。念のため、半径十メートルに何もないことは確認した。後で社には報告しておく。軍警や市警がうるさく言ってくると困るし」
「そうですか……って、そうじゃなくて!」
「何よ」
詞織さんがそう聞いたのと、乗務員が駆けつけたのはほぼ同時だった。
* * *
あのあと、事情を説明し、何とか納得してもらったものの、僕らが乗っていた車両は立ち入り禁止となった。
それだけでなく、新幹線の窓の修理代を請求されることに。
そんなぁ、と嘆いていると、詞織さんが「責任は愚かな行動をしたこの人にある」と元議員を指差した。あの場合は、あぁするしか方法はなかったと言い張り、修理代は元議員が払うことに。
ふざけるなと凄い剣幕で怒鳴る議員に対して、少しも怯むことなく意見を述べられる彼女の方が凄い。
とりあえず、国木田さんの胃痛の種にならなくて良かった。