第10章 ヤキモチ少女
「で、社長……結果は?」
国木田が社長に尋ねると、社長はしばらく敦を見つめ、羽織を翻して踵を返した。
「太宰に一任する」
そう一言残して、社長は事務所を後にする。
何も言えない敦に、太宰さんが声を掛けた。
「合格だってさ」
「落ちれば良かったのに」
頬を膨らませると、太宰さんが「コラコラ」とあたしを窘(たしな)める。
「つ、つまり……? 僕に斡旋する仕事っていうのは、ここの……?」
冷や汗を流す敦に、太宰さんはクスッと笑った。
「武装探偵社へようこそ」
手を広げて歓迎する太宰さんに、敦の汗が止まらない。
「うふ、よろしくお願いしますわ」
「い、痛い! そこ痛いってば! ナオミ、ごめん! ごめんって‼」
爆弾魔の少年と人質の少女……改め。
谷崎潤一郎――能力名『細雪(ささめゆき)』。
その妹――谷崎ナオミ(能力なし)。
相変わらずベタベタとスキンシップ過多な兄妹。
敦は呆然とし、やがて、ドサッと尻もちをついて倒れ込んだ。
「ぼ、僕を試すためだけに……こんな大掛かりな仕掛けを?」
「このくらいで驚いてちゃ身が保たないよ?」
にっこりと楽しそうに笑う太宰さんに、敦はカサカサと後退する。
「いやいや! こんな無茶で物騒な職場、僕には無理ですよ!」
青い顔をして辞退しようとする敦。
「よし! 敦は採用辞退。社長に報告して、とっとと追い出そう‼」
事務所を出て社長のところへ行こうとするあたしを、太宰さんが止める。
後ろから口を押さえられ、ガッチリとホールドされた。
「ムゴモゴム、モガモゴムグ(太宰さん、止めないで)!」
そんなあたしをよそに、太宰さんは「おやおや」と敦に言う。
「君が無理というなら強制はできないね。となると、君が住んでる社員寮を引き払わないと」
そうそう。
あたしは大人しく頷く。
「あと、寮の食費と電話の払いもあるけど……大丈夫?」
無理だろう。
なんせ、一文無しなのだから。
――せ、選択肢がないじゃないですかぁあぁぁ‼
何が悲しいのか、敦が涙を流し、声無き声が響く。
結局、敦の入社は決定した。