第2章 愛を知らない少女
――親は子を愛するもので、子は親を愛するもの。
そんなものは嘘だと、あたしは物心ついた頃から知っていた。
もしかしたら愛されたこともあったのかもしれない。
でも、その記憶がなければ、愛されたことがないのと同じだ。
あたしは親の愛を知らない。
あたしは親への愛を知らない。
そして、愛がなくても生きていけることを知っていた――……。
* * *
傷だらけの四肢を投げ出して、あたしはぼんやりと座っていた。
口元は切れ、頬は腫れ、身体中が痣と傷だらけだった。
もう何日も食事を摂っていない。
それでも、あたしの身体は衰弱してくれなかった。
あたしは切れた傷口に滲む血をペロリと舐めて口に含む。舌が届く範囲だからほとんど手や腕に限られるが、次々に唇を寄せて舌を這わせた。
すると、回数を重ねるごとに、傷口が塞がっていく。
口元の傷も、頬の腫れも、身体中の痣や傷も……。
空腹はすでに過ぎ去り、あたしは今日も食事を貰えないのかと、その場に転がった。
母を「お母さん」と呼んだのは、いつが最後だっただろうか。
父を「お父さん」と呼んだのは、いつが最後だっただろうか。
二人があたしを名前で呼んでくれたのは、いつが最後だっただろうか。
そんな当たり前のことすら、あたしは忘れてしまった。
あたしは愛された記憶がない。
母が与えるのは罵倒の言葉と暴力だけ。
父はあたしに無関心で、何かを与えてすらくれない。
そんな無価値な毎日を送りながらも、あたしは死を選ぶことだけはしなかった。
だって――……。
* * *
明日はあたしの誕生日だ……なんて、祝ってくれる人間は誰もいない。
相も変わらず母親からの罵詈雑言と暴力に耐えきったあたしは、やはりぼんやりと人形のようにただ転がっていた。
母は机に伏せている。眠っているのだろうか。
夜は深く、日付が変わるまで一時間もない。
そのときだった。
ガタガタと慌ただしい音を立てて玄関が開いた。
何だろうと、思ったが身体を動かすのが億劫だ。
騒々しい足音が廊下を走り、居間の戸が乱暴に開かれた。