第40章 『はじまり』のおわり
暗い部屋で、その男はノートパソコンのキーボードを叩いていた。
「白鯨の墜落には失敗しましたか。ですが、ほぼ計画通りです。組合の内乱を誘発させ、その隙に資産の四割を簒奪(さんだつ)。また、横浜を傷つけ、敵を弱体化。有能な異能者のスカウトにも成功しましたから」
「私はスカウトされたつもりはない」
男にそう訂正したのは、首から大きな十字架の首飾りを下げた牧師姿の男性だ。
陸地に拠点を持てない組合の前線基地で、本国からの物資の積み込みを指揮していた組合の職人であるナサニエル・ホーソーンである。
その拠点となる船を強襲した芥川の攻撃から彼を庇って意識不明に陥ったのは、同じく積み込みの指揮をしていた構成員で徒弟だったマーガレット・ミッチェル。
彼女の治療を条件に、ホーソーンは男に協力することを了承した。
ポートマフィアが片づけた案件で、探偵社が知る由もないが。
一次的に手を貸しているだけだと訂正するホーソーンに、男は「結構です、牧師殿」と言いながら爪を噛む。
振り返って見せたのは、目元に濃いクマを作った、痩身の男。
地下組織の盗賊団『死の家の鼠』頭目。
フョードル・ドストエフスキー ――能力名『罪と罰』
太宰が『魔人』と称したのも、この男のことである。
「共にこの地を、罪深き者の血で染めましょう。より良き、世界のために」
ドストエフスキーは、そう言って暗い笑みを浮かべた。
――To Be Continued――……?