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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第40章 『はじまり』のおわり


 一方、新たな来訪者が事務所の扉を開けた。
 組合で設計者長をしていたポオである。

「乱歩君……? 電話で頼まれた新作原稿を持って来たのであるが……?」

 直接対決を経て友好を築いたらしい。
 ポオの肩には、彼の一番の友人であるアライグマのカールが乗っている。

 ケーキを食べていた乱歩は、機嫌良さそうにポオを手招きした。

「あぁ、君。こっちこっち」

「こんな場に我輩を呼んでいいのであるか? 我輩は敵組織の……」

 人間であるのに、と言う言葉を待たずに、乱歩は「そうだっけ?」と首を傾げる。

「すぐ戻るからここにいて!」

 乱歩は隅の方へポオを座らせて去って行った。
 それと入れ違いに、気を利かせた賢治が彼に声を掛ける。

「何か飲みますか?」

「そうであるな……」

 何か、吾輩っぽいものを……と言いかけて、それでは伝わらないなと気づく。
 宿敵であり、今では友人の乱歩には伝わるかもしれないが、この少年とは初対面である。

 いや、そこにあるやつを……と途中まで言って、待て待てと考え直す。
 こういった賑やかな場には不慣れだ。
 せっかくだから、この場に見合ったものを頼もう。

 そう言ってみたものの、ぽそぽそと小さく言葉を紡ぐポオの声は、周囲のざわめきにかき消される。

「すみません、周りがうるさくって」

「…………何もいらないのである」

 賢治も去って行き、乱歩も戻らない。
 もしや、自分は忘れられているのだろうか。

「乱歩君……これは何の拷問であるか……?」

 膝を抱えるポオのもとへ、乱歩は戻って来るのか。
 それは、我が道を行く乱歩の気分次第であった。


 やがて、宴も最高潮に達した頃、敦はようやく、探偵社のメンバーが足りないことに気づく。


「……あれ? そういえば……太宰さんと詞織さんは?」


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